(日記より、Nov. 9, 1991の夜からカヤンバは始まったが、このカヤンバの記録は翌日の Nov. 10, 1991の日記に記載されている) Nov. 10,1991(Sun), kpwaluka
昨夜は7時半過ぎにMurina宅へ着いた。anamadzi1たちもすでにほぼ全員そろっている。kuku2で夕食をとり、22:00kayamba開始。女たち3はmahamuri4の準備をしている。近所の若者たちも大勢詰め掛けて、けっこうな人出。しかしmudigo5を打っている途中でMwanza氏6がやってきて、一瞬緊張が走る。見物に来ただけなのだが。具合の悪いことに、そのあと次々異なるnyama7の歌を打っても muwele8が一向に踊らなくなってしまう。anamadziたちは聞こえよがしに utsai13 の干渉を口にし、意味ありげにMwanza氏に言葉を投げかける。やがてChari自ら、naonerwa chidzitso kazi ya uganga ni kondo ee! の歌を歌いだし、kayambaがフォロー。chariはgolomokpwa14し、小屋の中に駆け込んでchiluu15を被り,mudat'a16を持ち出して、踊りながらぐるぐる歩き回り人々の顔を覗き込む。Mwanzaのところでは、おどろいたような身振りをして見せたりして、私ははらはらしてしまう。と、golomokpwaしたChariを静めに来たMurinaも突然golomokpwaし、怒りまくったふうに(chisiru chisiru17)、訳のわからないアラビア語風言語を喋りだす。スワヒリ語で人々に、どうしてここに「悪い物」があるのかと詰る。人々は、「ここにはなにもない」と答える。Murina, 小屋の中に飛び込み、すごい勢いでまた飛び出してくる。しかしChariも例のGanda語を喋りだし、Murinaの「アラビア語」と激しく応酬。水をもってこさせ、Murinaに頭からかけて、Murinaを「説き伏せ(?)」、Murinaは次第に静まる。Chariはgolomokpwaしたままで,mburuga18をはじめ、Mwanamadzi1の一人(Mawaya19)に対して子供の死産の原因を占う。 この後も、肝心のmuwele8は一向にgolomokpwaしない。Chari, Murina、小屋の中で mwana wa ndonga(chereko20)の準備。一連のライカの歌が聞こえているが、あいかわらずkuvina30していない様子。Chariたち合流後も一時mwahanga31でkuvina, ちょっとgolomokpwaするが、ほぼそのままあまり踊らない状態で午前3時になる。再びChari自身が nindahendadze の歌で golomokpwaし、人々との間でコミカルなやりとり。午前4時10分、chai32とmahamuri4の用意ができたのでmakoloutsiku35 休憩。 午前5時15分、kayamba再開。Mwanamulungu22から始まり、mulunguの子供を与え、次いでmuduruma36の子供を与える今日のクライマックス。muweleはgolomokpwaし、Chariとやりとり。Chari が子供を与えることを説き聞かせている。残念ながら,kayambaが一層激しく打たれ、私自身もマイカヤンバで演奏に参加していたので、このやりとりについては録音できず。mudurumaではmuweleは喜んでげらげら笑い、mwanaを与えられた後、今度は勝手にdigozee39にgolomokpwaして、ひとしきり踊る。ついでmudigo。ここでもmuweleは激しくgolomokpwaし、泣く。Chari はしきりにpore42を繰り返し,muweleをなだめる。Shera43で終了。例のヤケクソの盛り上がりである。 Chari はkayamba終了後もちょっとハイ状態。私は眠いので7時に辞す。ちょうどカタナもmukutano48から帰宅。一緒に朝食をとっているところにMuchemunda, Memulanda49が来て、お茶を飲みつつ噂話に花を咲かせる。昼ごろまで仮眠。
施術師: Chari wa Malau, Murina wa Chimera ムウェレ8: Mbeyu(Chariのmwanamadziの一人でもある、Mwanza氏の姪(ZD)) 歌い手(main kayamba player): Mawaya
日記にもあるとおり、通常は患者が所属する屋敷で行われるのが普通であるが、このカヤンバはムリナとチャリ夫妻の屋敷で行われた。チャリの女性弟子(ateji, anamadzi1)たちも近隣から参集し、夕食やマコロツィク(makolotsiku35)、朝食のお茶などの調理を担当。男性弟子たちも演奏者として多数参集。賑やかなカヤンバとなった。
ムウェレのムベユ(Mbeyu)は、結婚したのち子供に長い間恵まれなかったが、占いの結果、ムルングと憑依霊ドゥルマ人が彼女の「腹を縛ってしまった ku-funga ndani」、つまり妊娠を封じてしまったのだと判明し、瓢箪子供が必要とされていると言われた。出産祈願の瓢箪子供を約束し、子供が生まれた。2人の子供を産んだが、瓢箪子供の約束は果たさぬままだった。その後、彼女の夫が他所に女を作って出ていったため、問題は放置されることになった。婚資が返却されていないため、彼女はまだこの夫の妻であり、2人の子供も夫の子供である。今、ムベユは「腹の病気」50に苦しんでおり、占いにより、再び、瓢箪子供を差し出す約束が破られていることを指摘された。
ムベユはチャリの施術上の子供の一人であり、施術上の子供たちが多く参加し、近所から来た観客たちを除くと、仲間内のカヤンバという雰囲気が強かった。
(1991年11月9日のフィールドノートより) 例によってフィールドノートをほぼそのまま転記したテキストをそのまま貼り付ける。セクションごとのタイトルはウェブ化の際に付与したもの。またドゥルマ語テキストへのリンク、その和訳へのリンクは、当然ウェブ化の際に付加したものである。 フィールドノートそのものの記述に手を加えないため、現地語などは訳さずそのままとし、注釈の形で補足説明している。(DB...)は後にフィールドノートに紐づけた書き起こしテキストの、該当箇所を示す番号。植物名の同定はフィールドではできず、文献に基づく事後的な補筆である。 今回のカヤンバにおいても、案の定頻繁にレコーダーの操作ミス(フェザータッチのせいにしたい)で録音が盛大に失敗している。また写真もきちんと整理して保管していないせいで、一枚しか見つからなかった。
(DB 3861-3890)
22:00 kayamba開始 チャリによるンゴマ開始のクハツァ ドゥルマ語テキスト(DB 3861)
22:05 mwanamulungu51 少し踊る Mwanza6氏来る52 mwarabu53 ×54 mudigo golomokpwa 泣き、笑い、激しく踊る ngoma yangu55!と叫ぶ
ムベユ、憑依霊ディゴ人で激しい憑依状態に ドゥルマ語テキスト(DB 3862-3863) chitsimbakazi ×56
23:50 musambala57 少し踊る zimu58 × mukpwaphi59 少し この後、muweleまったくkuvinaしなくなる
24:20 Chari jinja60の占い歌を歌いだし、カヤンバが続く。 Chari golomokpwaし、chiluu15を被り、mudata16をもって出て、顔を覗き込みながら人々のなかを回る、はらはらする、Murina 駆けつけて、冷静にChariをなだめる ジンジャ導師の歌、チャリ憑依 ドゥルマ語テキスト(DB 3864-3865)
少しのやり取りの後、Murina自身も golomokpwa、いきなり怒り出す、すさまじい剣幕なので、Mwanza氏と喧嘩になるのではと心配したが、ChariとMurinaがそれぞれのchiryomo61で言い合い、ついに水を掛けられて Murina 鎮まる ムリナとチャリ、理解不能な異言で応酬 ドゥルマ語テキスト(DB 3865-3867)
この一連の流れに、参加者たちちょっと鼻白んだ感じ(my impression)、どうもいかん Murinaはその後は座ってkayambaを打つが、体を屈伸させたり、しきりにゲップしたり、気分悪そう
Chariはgolomokpwaのまま、占いを続ける。Mawayaは真剣に聞いている チャリの占い ドゥルマ語テキスト(DB 3868-3877) いつのまにかMwanzaいない
01:30 MurinaとChari、 kayambaをanamadziたちに任せて小屋の中で mwana wa ndongaを
kuhumbula62する
外ではlaika63等が演奏、盛り上がりに欠ける感じ82
[2つの瓢箪子供を制作するムリナとチャリ。瓢箪に穴を開け、中身を取り出した後、瓢箪の首にビーズ飾りを巻く]
ndonga にいれるもの mwanamulungu roho83 ...mwerekera(mapande2)(未同定)84 mutserere(Hoslundia opposita(Pakia&Cooke2003:391))85 muvunzakondo(Allophylus rubifolius)87 kaya tahu にちなんで三種類の木の mapande24を MurinaとChariが一緒に入れていく milatso88 ...mafuha ga nyono29 mavumba28 細かく砕いたムルングのmihi(上記のmihi含む)89
muduruma roho ...muchimwimwi(mapande2)(Gardenia volkensii(Pakia&Cooke2003:393))92 muphingo(Dalbergia melanoxylon(Pakia&Cooke2003:391))93 murandze(Dalbergia boehmii(Pakia&Cooke2003:391))94 milatso ...mafuha ga nyono mavumba ...上記のmihi89 + kachiri95 etc.
ついで chiphogo97 の作成 [ディゴ人のビーズは白と紺、シェラのビーズは白と赤のビーズが交互に並んだもの(スケッチ下手すぎ、ごめん)] mudigo5 と shera43 のushanga98をつなぎ合わせたもの これはmuwele8の腕に巻く まだkuphula mizigo46が済んでいない(それを待っている)ことを示す
Chariによると muwele は mulungu と muduruma によってkufunga ndani99 されていた kuvoyera mwana100 をして子供が生まれた そこで約束どおり、ngomaを開き、mulungu と mudurumaに対して mwana wa ndonga を与えねばならないのだが、その約束は果たされないでいた
そして今、ukongo wa ndani101、ana a ndongaの約束を果たすべき
この女性は子供が生まれた後に、夫と別れたので、matumia102 の必要はない Murinaたちもmatumiaする必要はない ただkulavya103すればよいだけ MurinaとChariでkuhumbulaしたのもそれが理由(普通は患者夫婦が行う)
02:05 murisa104の途中で muwele泣き出し、自ら先導してmwahanga31の歌を歌いだす ムベユ(ムウェレ)、自分からムァハンガの歌を歌いだす ドゥルマ語テキスト (DB 3878)
立ち上がって泣きながら、ひとしきり踊ると鎮まり、再びmurisa に戻る 少し踊る
02:15 kalumeng'ala37 に始まる一連のmuduruma36の歌 muwele ku-sukaでgolomokpwa、Chariもgolomokpwaしやり取り、演奏一時中断 憑依霊ドゥルマ人でチャリもムベユも憑依 ドゥルマ語テキスト (DB 3879) 続く一連のmudurumaの歌で少し踊るが、すぐに座る ドゥルマ人の歌が激しいリズムで続いている途中で、チャリは突然ギリアマ語にチェンジ、自分で新しい歌を歌いだし、泣き出す、ムリナなだめる そしてその後、ギリアマ語で占いに入る105 チャリ(おそらくデナ)に憑依され、そのまま占いへ。またかい。 ドゥルマ語テキスト (DB 3880-3889)
その後、makoloutsiku35 まで種々のnyama7の歌が演奏される 途中MawayaがMwalimu jamba106の歌を歌おうとするが、Chariに止められる ChariはMurinaを指差して、jambaは歌わないようにジェスチャー Chariは私に、あいつらイスラムはみんなatsai108だ(adzomba osi ni atsai aa)などという109
04:10 makoloutsiku35
05:15 kayamba再開
mwanamulungu
lola anangu の歌でmuweleにmwana wa ndonga(chereko)を与える
続いて
muduruma
mwana を与える
けらけら笑う
途中digozee39にgolomokpwaし、急遽その歌にスィッチ
「子供を育てることはできない」などと言っている110
ムベユ、ディゴゼー(digozee)に憑依
ドゥルマ語テキスト (DB 3890)
mukoba10 wa chingo111, chihi112 cha magulu113 mahahu114, mukpwaju115 を与えて踊らせる 歌が終わると、Chariは mutumia uphokerwe116 と言って、mukobaなどを muweleからはずす
その後は再び普通のmudurumaの演奏に戻り、muweleは肩を揺する程度のおとなしい踊り
05:40 mudigo kusukaの段階でgolomokpwa matungo118を与えられる しかしUmazi(Tushe)が同時にgolomokpwaし、いきなりmuweleを引きずりおろそうとする。 Tushe、人々に脇から支えられるように、別の小屋に連れて行かれる Tushe、別の小屋でがたがた暴れている 05:50 muwele、mwalimu jinja60で硬直症状的なgolomokpwa MurinaとChari、スケッチブック(nyamaの絵が描いてある)を持ち出しmuweleに見せてやる 絵をお前にも描いてあげると約束する
最後はいつものようにsheraで大盛り上がり 機嫌よく踊る
06:20 終了
終了後、muweleはかなり気分悪そう Chariは一種の躁状態で、異様に陽気
Murinaは一眠りした後、Chariと2人でMwainziを訪問し、 mwalimu dunia のnyungu91から始めるように依頼し、makokoteri119を受けてくるという
というわけで、全体としてはかなりハチャメチャな徹夜のカヤンバだったのだが、主目的の「2つの瓢箪子供の差し出し」というクライマックス自体は、さらりと終了。「見てるだけじゃなくて、お前もカヤンバ叩け」と言われて私も演奏に参加していたので、このときのやり取りは残念ながら録音できていないが、録音してもほとんど聴き取れなかったろうと思われる。普通はムルングについてなされる出産祈願の瓢箪子供の差し出しが、憑依霊ドゥルマ人に対してもなされるということで、私も構えていたのだが、単に「ドゥルマ人も患者の腹を縛っていたから」というだけの説明で、誰もそう特別なことだとは考えていないようだった。
ムウェレのムベユさんは、休憩タイムの前までは、憑依するときは凄まじいのだが、それ以外のときは軽く肩を揺する程度で、立ち上がって踊ることもあまりなく、カヤンバ演奏者たちもちょっと不満そう(私の印象)。で、どうしても中だるみになりそうなときに、チャリが自ら憑依状態になって占いを始めるというパターンに見えた(私の印象)。まさかカヤンバのテンションを維持するための演出というのではなかろうとは思うが。 休憩タイムの後、瓢箪子供が差し出された後は、突然激しい憑依の連続で、憑依した者どうしが激しく絡んだり(トゥシェは連れ去られた後でも小屋の中でなにやら暴れまわっている有り様)、すごいことになり、結果としては大成功(?)のカヤンバであった。
といっても、ムウェレがいっこうに踊らないのでずいぶん雲行きが怪しかった。ここでは、今回のカヤンバで注目すべき問題として、ムウェレが踊らない問題と、それとの関係もあるが、ンゴマと妖術の問題の二点について、もう少し考えてみたい。
ンゴマ(カヤンバ)の概説のページで、私はンゴマについて解離経験を生成する装置だという言い方をした。実際数多くのンゴマやカヤンバに参加して、ほぼ確実に言えるのは、太鼓やカヤンバの演奏者・歌い手たちはムウェレをgolomokpwa状態に導くことに躍起になっているように見えるということである。そこで憑依という解離経験が出現することにびっくりするのは、私のような外部の観察者だけで、人々にとってはそれは、もし患者が霊を持っているならば、当然起こるべきことなので、驚くには当たらない。むしろ驚くべきこと、意外なことは、それが起こらないことなのである。
というわけで、日本人の部外者にとっては、そこで憑依が起こることが不思議で説明を要することなのだが、ドゥルマの施術師や演奏者たちにとっては、むしろそこでそれが起こらないことこそが、説明を要することになる。そして、これを当たり前と言ってよいのかどうか微妙だが、ンゴマやカヤンバにおいて、これは結構頻繁に見られる問題なのである。ムウェレが踊らない問題と言おう。このサイトで紹介しているンゴマの実際例でも、多くでこの問題が生じている。けっしてそんな実例ばかり集めたわけではない。
この問題は、憑依霊がもとになって生じることがある。ンゴマの開始の唱えごと(クハツァkuhatsa120)のなかの決まり文句とでも言うべきものに、霊たちに対して、いっせいにやって来て、邪魔しあわないようにと願うくだりがある。ここでの事例でもチャリは憑依霊たちに対して「お静かに、お一人、お一人おいでください。...やって来て、押し合いへし合い、互いに追い出し合いは、なしです。」と願っているし、筆頭演奏者も憑依霊たちが「やって来て、お互いに譲り合う」ことを求めている。憑依霊たちは自分勝手で利己的な存在なので、自分が踊るために、他の霊たちが憑依するのを邪魔し、妨げる場合がある。その結果、ムウェレは踊らなくなる。ここでの事例でも、最初ムウェレが踊ろうとしなかったのを、憑依霊ディゴ人が、自分の曲が演奏されることを望んで、ムゥエレを「縛り」、本来最初に踊るはずのムルングと憑依霊アラブ人を封じてしまっていたのだという解釈を演奏者の一人が叫んでいる。ムルングとアラブ人でまったく踊る素振りのなかったムウェレが、憑依霊ディゴ人の一曲目で「獰猛に」踊り始めたのを見て、彼は「こいつ(憑依霊ディゴ人)がお母さんを縛ってたやつだったんだ。今や、癇癪を起こして踊っているよ。」と叫んでいる。そしてそれに対して、チャリは、憑依霊ディゴ人とその仲間が満足して、他の霊たちに場所を譲ってくれるように、彼らの曲を演奏するよう指示している。
このように霊たちが競い合うことによって、結果的にムウェレが踊らないという現象が起きるというのが、ムウェレが踊らないよくある理由の一つである。なかでもイスラム系の憑依霊は「獰猛」で他の霊たちが踊るのを封じてしまうことがしばしばある、とされている。
ムウェレが踊らないもう一つの原因が、ムウェレの近親者がムウェレに対して感じたことのある怒りや不満に求められることがある。こうした心の中の怒りや不満は、ドゥルマ語ではフンド(fundo, pl.mafundo)「結び目」という言葉で言い表されるのだが、この言葉から派生した語にムフンド(mufundo, pl.mifundo)という概念がある。父や母が子どもに対して怒りや不満を覚えると、本人に子供に対して危害を加えるつもりがなくても、子供にさまざまな災がふりかかる。子供は、父あるいは母のムフンドに捕らえられたのだ、と言われる。逆はなく、親が子供のムフンドに捕らえられることはない。子供に降りかかる災いが、親のムフンドのせいだとわかると(もちろん占いによってだが)、親は子供をクハツァ(ku-hatsa120)することでムフンドを解除することができる。自分が感じたかもしれない怒りや不満について語り、もはや自分には悪い言葉はないと宣言して、口に含んだ水とともに唾液を、自分の胸と子供の口の中に吹きつけるのが、クハツァの行為である。ムフンドは基本的に親子関係の中で発動するが、多くの人は配偶者も相手のムフンドによって捕らえられることがあると主張する。
ンゴマやカヤンバにおいてムウェレが踊らない場合、しばしばその配偶者にクハツァすることが求められる。配偶者のムフンドのせいで、ムウェレが縛られているために踊らないのだと考えられているのである。
1989年の調査から、2つばかり事例を挙げておこう。
11月17日のベクェクェの屋敷での昼のカヤンバ (DB 810-813) 手付の瓢箪子供をムルングに対して示すカヤンバと鍋の差し出しが行われたが、ムウェレの女性は、冒頭の憑依霊アラブ人でいっこうに踊る素振りを見せなかった。施術師は患者の夫にムフンドの解除のクハツァを求めるが、夫はやや非協力的。結局、クハツァでも患者は踊るようにならなかった。(施術師は最終的に妖術の介入を疑うことになる)
Chari: ご主人を呼んできて、クハツァしてもらいましょう。もう日が暮れちゃった。 Bekpwekpwe(ムウェレの夫(Bek)): 私は誰とも言い争いなんかしてません。 C: 問題の発言が、誰かとの言い争いに限るとでも?あんたが冗談で口にしたことが、本当になることもありうるのよ。 Woman(W): 誰とも言い争いをしてなくても、あんた、言ってみなさいよ。そしてこの人(ムウェレ)にも言わせましょうよ。 C: 皆、頑張ってるのに、日が暮れちゃう。 Murina(Mu): ここにある薬液(vuo)をすくって(それでクハツァしてしまえよ)。 Bek: はー、でも何を言えと? W: ああ、ああ、お話しなさいよ。チュンバさんの奥さん、いる?文句を言えばいいのよ。「何を言えと」なんて、なし。 (Bek、自分の胸に口に含んだ薬液を吹きかけ、クハツァ) Bek: 私には諍いはありません。あなた、踊りなさい。それだけ。 C: 私に大事なのは、この人が内にあるものを全て話すこと。だって、私は病人を治療し、彼女に治ってほしいだけ。でも私はフンド(しこり)のある患者は、治しません。あなたがたは、話すこと。たとえ冗談で言ったことでも、憑依霊自身はあなたの声をそのまま受け取る。(例えば)「私には憑依霊はいないよ。」(などと冗談で言ったら)、その人はそれだけで取り憑かれてしまう。そんなものよ。 W: (患者に向かって)ごらん、彼女に憑依霊はすでにやって来ている。なにか言うべきことがあるのなら、まずは話しなさい。ここにいる仲間たちをいじめるんじゃないよ。 C: さあ、話しなさいよ。私の娘(施術上の)よ。もし話さないのなら、水をもってきて、ぷっと(吐きかけ)なさい。それで終わりにしましょう。 Mu: 彼女はとっくに(憑依霊に)満たされてるよ。彼女に何を言わそうと?ムルングの歌を打ちましょうよ。皆さん、カヤンバをお打ちなさい。 (ムルングの歌演奏。しかしムベユはムルングの歌にも反応なし) W: ご主人を、ベクェクェを呼んで、こっちに来させて。 Man(Kayamba player): 彼は、この人がどのンゴマを打ってもらっても踊らないって言ってなかったっけ? W: (霊は)来るのよ、でもあの人(ベクェクェ)はいなくなるの。 Man2(kayamba player): まだ霊にぶつかっていないんだよ。普通は人が(心の中の怒りについて)話して、フーッてやる(水を吹きかける)ものだよ。彼は水を飲み込んでから、フーッてしてた。 W: それが理由じゃないわよ。
11月8️日のンゴメの屋敷でのバハティの除霊 ンゴメ氏の若い妻バハティの子供(乳児)が病気で、病院で手術するも、おもわしくない。ンゴメ氏は占いに行き、それが除霊すべき霊たちの仕業だと知る。急遽カヤンバが開かれることになった。しかしバハティは踊らず、ンゴメ氏にクハツァが求められた。 (DB 738-759) (憑依霊アラブ人の歌7曲演奏するが、バハティは踊らず)
kayamba player1: アラブ人は彼女の中には全然いないよ。この人、いままで扇がれた(ンゴマを受けた)ことがないのかい? Ngome: 試したことはある。 Pl1: 試しただって? N: (憑依霊は)やって来た、でもその踊り具合には問題があった。 Mulongo(Mu): 彼女が身体を固くしたら、憑依霊が来たとわかる。でも彼女がほぐれたら、憑依霊はいなくなったとわかる。 Pl1: でも、もし(憑依霊が)やって来たのなら、私たちは彼女には踊ってほしい。身体を固くしないで欲しい。だって、私たちは彼女に踊ってもらって、ほどいてもらいたいんだから。 (ムルングの歌8曲演奏。施術師ムルングに、子供が病気で、私たちは子供に治ってもらいたいのだと説得する。でないと子供の体力が尽きてしまうと。しかしバハティは身体を固くしている。) Woman: この人、身体を固くしているよ。 Kalimbo(muganga)(Ka): さあ、さあ、踊って。あなたの歌ですよ、これは。 さあ、これはムルングの布ですよ、これ。後でビーズも縫い付けますよ。ゆっくりとですが。でも今は、踊ってください。私に、あなたを困らせていることを教えて下さい。もしあなたが実際に子供を苦しめている人なのなら、何が欲しいのか言ってください。すっかりお調えします。やって来て踊ってください、あなた。私は恥ずかしがり屋のムルングは嫌いです。 (ムルングの歌停止) Ka: ああ、ごらんなさい、あなた。あなたは困ったことをする。さあ、あなた、私の友よ。さあ、ごらんなさい、友よ。あなたはやって来たのに、何も話さない。それじゃ、私は何も知りようがないじゃないですか?(子供を)つかんでいるのが、あなたなのか、それともあなたの仲間なのか?ムルング子神よ、私はあなたが恥ずかしがり屋じゃないことを知っています。やって来たら、すぐにどんどんお話になる。さあ。どうして今あなたは愚か者なのですか。もしかして何か欲しいものがおありですか。そうなのですか?もしおっしゃらなければ、いったい誰に調えてもらえるというのですか?あなたは愚か者ですよ、あなた。 Mulongo(Mu): このカヤンバで三度目よ。打ってもらっても、身体を固くしてしまう。 Ka: これじゃ、あんたは(子供を)食べてしまうことになる。 Pl1: まだ(ムルングは)やって来てないんじゃないか。身体の中にやって来たら、もういつでもOK。全然恥ずかしがり屋じゃないよ、そいつは。 Pl2: 恥を知らないのは憑依霊ディゴ人じゃなかったっけ?でも彼女(バハティ)のディゴ人はそうじゃない。こんな感じ(身を固くしている)なだけ。 Pl1: 恥知らずのディゴ人といえば、ムサンブェニ121の連中だね(冗談)。 Mu: だって、三度目よ。これが初めてだっていうんなら、... (キツィンバカジの歌2曲、憑依霊サンバラ人の歌3曲演奏) Pl1: サンバラ人もいないな。 Kalimbo(Ka): (ンゴメ氏に向かって)あんた、何も言うべき事はないのかい? Ngome(Ng): 今日のことは、もう私の問題じゃない。彼女(彼の妻)自身の問題だ。 Mu: (バハティに)恥ずかしさを捨てなさいな。あんた、非常識にも、あんたの子供一人一人を扇いでもらえばよいなんて、考えているの?あなた自身のカヤンバだったら、あれこれ言われることもない。自分を固くするんなら、一人でお好きなだけどうぞ。でもね、ごらんなさい。あなたの子供の異常の問題なのよ。(カヤンバが)始まって以来、あんたは憑依霊を縛っている。もしかしたら、あんたの子供を苦しめている憑依霊かもしれないのに。あんたはそいつを、相変わらず縛り付けている。 Woman: (ンゴメに向かって)あんた、話すつもりがないなら、あなたの心に唾液を吹きかけるだけでもいいわ。 Kaingbwa(Kai): あんたは、あんたの言葉を喋ったらいい。 Pl1: だって彼女は、憑依霊に満ちている。でも、彼女は今、身体を固くしているんだ。ンゴメさん、こっちへ来て。彼女を少し解いてあげてよ。兄弟、私たちが、こうしてやっているのも、子供の今の状態を戻そうと頑張っているんだ。どうです、ごらんなさい、この子供の状態を。 Ka: 皆さん、お静かに。彼(ンゴメ)に喋らせましょう。 Ng: 私は多くは喋りますまい、この者(バハティ)について、つまりお前について、たくさんは。私がこんな風に喋るとすれば、この者が口にしたことについてなのです。もしこのカヤンバがお前のためのものだったら、お前が自分の身体を捻じ曲げようと、それで苦しもうと、私はお前を放っておいたでしょう。でも子供があんな風。この屋敷の何もかもが彼女には気に食わない。お前には気に食わない。誰もがみんな、まさに昨日のこと、お前がこう言うのを見ている。「(この屋敷の)ヤギは全部、誰かのもの、ウシは全部、誰かのもの、私のものじゃない。」何一つとっても私のものと言えるものはない、とな。でもそれらの物こそがお前を治療するもの(資金)なんだぞ。それらこそ、お前がこの屋敷に妻として据えられるようにしているものなんだぞ。何かあるごとに、お前はそれらの言葉を吐いた。私は多くを喋りますまい。でももしこうした怒りのせいなら、たった今より、憑依霊よ、とき解けてください。そしてその口(悪い言葉)を彼女が捨て去りますように。私は、ほんの少しのものを外に出しました。私の心は平安です。すっかり、全部。この子供のために、こうして私の言うことはおしまいです。 Pl1: そういいながら、別のことを隠していたりして。 Mu: あんたは彼に洗いざらいぶちまけてほしいのかい、それらを自分で引き受けるの? (ズニ1222曲、ついでムァハンガ31、バハティ、激しく憑依状態) Ka: さあ、さあ、あんた。あんたは昨日、一昨日やって来た。でも今日が旅立ちだ。さあ、さあ、あんた。これが旅立ちだ。今日だ。あんたの故郷にお戻りください。さあ、旅です。 (バハティ、泣きながら首を左右に振り拒絶しているが、突然、膝の上に置かれた白い布にくるまれた土人形を抱えて、外に飛び出す。その後ろを、施術師や他の演奏者が追いかける。バハティは屋敷の外で意識を失って倒れる。施術師は口の中で小声で唱えごとをしながら、鶏を供犠する。その血をコップにとってバハティに飲ませ、何度も彼女の名前を呼ぶ。しばらくして彼女は正気を取り戻す。ズニの除霊完了。その後は他の憑依霊についても除霊を繰り返す)
もちろん、というか、妖術もムウェレが踊るのを妨げる理由の一つである。1991年~1992年にかけてのンゴマでは、なんどか触れたように、ムリナとチャリの夫婦は近隣のムァンザ氏の一族に対して妖術の疑いを向けていたために、妖術の介在を「ムウェレが踊らない問題」で真っ先に疑う理由としていたように見える。この疑惑を、彼らのアナマジ(anamadzi1つまり弟子・患者たち)も共有していた。そのせいで、途中からそんなこととは露も知らないムァンザ氏が登場しただけで、一気に険悪な雰囲気になった。ムァンザ氏の参加は、近所でもあり今回のカヤンバの患者が彼の姪(muphwa135)でもあったことから、当然のことだったのだが。
あろうことか、妖術使いを見抜けるという憑依霊ガンダ人で憑依状態になったチャリ自身が、妖術使い探索の際のスタイル(羽毛の頭飾りをつけ、蝿追いはたきをもった)になり、意味ありげにムァンザ氏の顔を覗き込んだりするものだから、気の小さい私など、どうなることかと冷や冷やするくらい、険悪なムードになった。それを宥めにやって来たムリナまで、獰猛なイスラム系の霊に憑依されて、いきり立って怒鳴りまくり始め、さすがに周囲のアナマジたちまで引いてしまうほどの空気になった。ここでチャリ(ガンダ人)が逆にムリナ(おそらくジャンバ導師)を鎮める側にまわり、二人で延々とわけのわからない言葉で応酬するものだから、周囲はすっかり白けムード(私の個人的感想)。結局ムリナに水をぶっかけて沈静化させ、占い師モードに転じたチャリが、弟子の一人が前日に経験したばかりの不幸についてその原因を明らかにする語りを始め人々の注意を再び集めることで、なんとか事態が収拾つくことになったが、いや、ほんとうに危なかった。気がつけば、ムァンザ氏はこの成り行きに呆れたのか、姿を消していた。
もちろん、この事例は施術師本人が妖術問題の渦中にあったという特殊なケースだが、妖術がンゴマの成功を妨害するという考え方は、施術師が特定の問題に関わっているかどうかとは無関係に、広く見られるものである。それには、施術師どうしの嫉妬、あるいはライバル意識の問題が関係している。憑依霊の施術師は、憑依霊によって引き起こされた自分の病気を自分では治療できないので、他の施術師の存在に依存している。その結果、施術師どうしの間に、治療による親子関係の網の目が成立する。治療上の(あるいは施術上の)子供が親を治療する場合がときにあるとはいえ(簡単な飲む草木や薬液、ときには鍋の設置など)、「外に出す」ンゴマや「重荷下ろし46」のような大掛かりな治療は、すでに自分の施術上の親である施術師や、まだ親子関係にない施術師を頼る必要がある。それによって複雑な施術上の親子関係が広がる。こうした施術師どうしの関係は、友好的・協力的な場合が多いが、そこにも微妙なライバル意識や嫉妬が見られる場合がある。とりわけ自分が「外に出した」施術上の子供が、施術師としての評判を得たり、すぐれた能力をもっていると思われた場合など。このあたりの事情は、特定の施術師のキャリアを紹介していくなかで、考察したいと思う。
施術上の親子関係にある施術師は、互いのやり方をよく知っているかもしれないが、そうでない施術師どうしは、他の施術師のやり方に大きな興味をもつ。施術師どうしが出会うと、しばしばお互いの経験について語り合ったり、特定の憑依霊の特徴や必要な治療とそのやり方などについて、熱心に議論しあったりする場面を、しばしば見た。まるで研究者や専門家どうしの意見交換のようで、どこか私にとっても馴染み深い場面に見える。素敵な人たちだ。でも、そこにはときに、ちょっとした嫉妬やライバル心もほの見えたりする(私の個人的印象かもしれないが)。チャリが占いの際によく歌うジンジャ導師の歌のなかでも歌われているように「私は嫉妬されている。癒やしの仕事は争いだから」というわけだ。
同じ好奇心が、他の施術師が主宰するンゴマが近所で開かれる場合に、その様子を見に来るという行動になって現れる。そんなおりに、たまたまムウェレがいっこうに踊らない場合には、その訪問者がなにかしたに違いないということになる。いきなり追い出すのは問題があるので、憑依した施術師が妖術師探索の施術(uganga wa kuvoyera)によって観衆の中から、トラブルを引き起こしている妖術使いを探し出し、対決するという形になる。そのような形でスポットライトを当てられてしまった客人は、気まずくなってンゴマの場を去ることになる。
あるいは、主宰の施術師がひそかに妖術返し(ku-phendula136)をして、かけられたと思しき妖術をキャンセルする。これなら、ンゴマの場を緊張させずに済む。
実は、後日聞いたことなのだが、このカヤンバにおいてもムリナたちはムァンザ氏が来ることを当然予測しており、前もって対処していたそうだ。それにしては、当日ちょっとゴタゴタしていたが。
(Nov. 11, 1991のフィールドノートより) 【Nov. 9 夜のkayambaについて】Murina
Murina はあの夜、Mwanzaが来るのを予期しており、前もってkuphendulaを済ませていた mulembeganga(mutsungang'ombe(Sonchus oleraceus(Kilifi Utamaduni Conservation Group2011)))の根を口に含んで噛み、 唾液をmuweleの roho83、moyo wa nyuma137、mbavu138、luhotsi139、chikomo140 に吐きかける
その唱えごと ドゥルマ語データ(DB 3898-3900) 日本語訳
ドゥルマの憑依霊のために開かれるンゴマは、憑依霊たちが喜ぶイベントであるばかりでなく、地域の人間たちも楽しみにするイベントである。自分に霊がいる人にとっては、他人のンゴマは、自分で自らンゴマを開催する資金のない人が、自分に憑いている霊たちに踊る喜びと満足を与えて、とりあえずンゴマの要求で霊が自分を苦しめるのを先延ばしにできる、またとない機会でもある。いろいろな霊がやって来ては、機嫌よく楽しく踊り、帰っていくだけの、なんの障害も滞りもないンゴマがベストであるのは当然だ。
しかしすべてが順調にいくンゴマばかりではない。なかでもムウェレが踊らない問題は、ンゴマの開催自体の意味をなくしかねない問題だ。おまけに結構起こる。それらに対する対処も、あれこれそろってはいる。しかしそれは、しばしば綱渡り。最後は霊たちがすすんで踊りを楽しみにやってきてくれるかどうかにかかっている。その過程のなかで、家族内の人間関係や葛藤、近隣の人々とのトラブル、施術上の親子関係に潜んでいる亀裂、施術師仲間との張り合いなど、あらゆる要素がチェックされていくのである。
Chari: おだやかに、おだやかに。私たちが「おだやかに」と申すこともなかったでしょうに。私たちが「おだやかに」と申すとすれば、私たちは、砦の主に他ならぬあなたムルングに、そしてあなた憑依霊ドゥルマ人に「おだやかに」と申しているのです。このンゴマはあなた方のものです。そしてお約束のンゴマです。 さて、私たちは皆さまにもお祈りいたします。北の皆さま(a kpwa vuri)に、南(a kpwa mwaka)の皆さまに、東(mulairo wa dzuwa)の皆さまに、西(mutserero wa dzuwa)の皆さまに、ブグブグ(bugubugu141)の方々に、ニェンゼ142の小池の方々に。 私たちはまた、子神ドゥガ(mwanaduga143)、子神トロ(mwanatoro144)、子神マユンビ(mwanamayumbi145)、子神ムカンガガ(mwanamukangaga146)、キンビカヤ(chimbikaya147)、あなたがた池を蹂躙する皆さまに、そして子神ムルング・マレラ(mwanamulungu marera148)、そして子神サンバラ人(mwana musambala57)とともにおられる子神ムルングジ(mwanamulungu mulunguzi149)、皆さまにお祈りいたします。 お静かに、お静かに、お一人、お一人、おいでください。でも、皆さま一緒にお着きになるのは、なしです。このンゴマはお約束の(開催期日を定めた)ンゴマです。もし皆さま方が、ぼろぼろ涙でお着きになるなら、私のこの屋敷を引っ越してしまいますよ。いなくなりますよ。私が、皆さま方にお差し出ししているこの屋敷の持ち主なのですよ。やってきて、押し合いへし合い、互いに追い出し合いは、なしです。これは約束のンゴマなのです。 今、皆さま方に乳香をお注ぎします。兄弟がお注ぎしますので、しっかりお感じください。そして今日はンゴマだ、あなた方のンゴマなのだとご理解ください。そう、お一人、お一人、おいでください。やってくるなり泣くのは、なしです。 Mawaya(Maw,チャリの弟子): 憑依霊ディゴ人、ムルング、憑依霊アラブ人、そしてその他の皆さま。やって来て、お互いに譲りあう、やって来て、お互いに譲りあう、です。 Chari: さらにこの乳香を鼻の穴に突っ込んだりしたら、鼻水ダラダラですよ(冗談か?)
3862
Mawaya(Maw): (乳香を入れた容器を落としそうになりながら)なんでこんなに熱いんだ、これ。 Chari: あんた、灰を入れなかったでしょ? Maw: こいつ、俺をいじめやがる。 C: あんた、自分で自分をいじめてるんだよ。あんた自身が火を入れたんでしょ。自分のせいよ。自業自得よ(文字通りには「それがどんなふうに感じさせるかは、あなたが感じるのよ」。 Maw: ああ、いい気持だよ。ほんとだよ。 (カヤンバ開始)
(ディゴ人の歌で突然憑依する) 3862 (ムウェレはムルングの歌で最初少し身体を揺すったのみで、それ以降の憑依霊アラブ人ではまったく踊らなかった。この2つの霊では憑依が予想されていたので、人々はかなり一生懸命演奏したが駄目だった。ところが次に憑依霊ディゴ人に移った途端にクスカ(ku-suka150)の一曲目で激しい(どちらかというと獰猛な)憑依状態に入った) (録音ミスでカヤンバ開始時よりディゴ人の一曲目まで録音失敗)
Man: こいつ(憑依霊ディゴ人)がお母さんを縛ってたやつだったんだ。今や、癇癪を起こして踊っているよ。 Chari: さあさあ、皆さん、(カヤンバを)お打ちなさい。そいつの仲間に場所を譲らせなさいな。
(憑依霊ディゴ人の歌 2 ku-suka150) (ソロ)
見ないわね、見ないわね、ニンベガさんのお子さん 私はここにいましたよ、もう 病人は戻ってきた、治療されるために 私はカイエンガヤツリ(mukangaga)の夢(k'oma 祖霊?)に祈ります 私は癒しの道の夢に祈ります 私は nkagunguwala(不明)の夢に祈ります なんと施術師がやって来た あなた方なんで私を憎んだの ニンベガさんの子供 私はここにいましたよ、もう 病人は戻ってきた、治療されるために (合唱) 瓢箪子供 瓢箪子供 私は癒しの術が欲しいの、皆さん 瓢箪子供
(ムベユとチャリたちとのやり取り(聞き取れた分のみ))
Mbeyu(Mb): 私は食べられてるのよ、みなさん。、私は食べられてるのよ、皆さん。 Chari(C): お静かに(または落ち着いて)、お静かに、お静かに。 Mb: できないの。できないの。私をつかんでよ、お母さん。 C: お静かに、お静かに。見えないよ。お静かにってば。
[歌の途中で、憑依したムベユと周りの人々とのやり取りも聞こえる。歌詞もやり取りも聞き取れていない部分が多い。]
3863 (憑依霊ディゴ人の歌3 kutsanganya151)
(ソロ) さてさて、あなたは病人かい? 瓢箪子供、ウェー (合唱) さてさて、あなたは病人かい? 瓢箪子供、ウェー (ソロ) さてさて、あなたは病人かい? 瓢箪子供、ウェー (合唱) さてさて、あなたは病人かい? 最初に生まれた子供 (以上、何度も繰り返し) (ソロと合唱) お母さん、私は布が欲しいの、お母さんってば。 私は私の布を求めているの、私の憑依霊ディゴ人の布 私の布よ、お母さんってば。 私は私の布を求めているんだよ。ねえ。 憑依霊ディゴ人の布。
(ムベユは憑依状態のままチャリたちと言葉を交わしている。聞き取れた箇所のみ。)
Mbeyu: 私はンゴマが欲しい。私のンゴマよ! woman: ンゴマは与えてもらえるよ、お母さん。でも肩を上げて、ンゴマ頑張って。 Mb: はい、お母さん。
[歌の途中で、憑依したムベユと周りの人々とのしきりとやり取りしているが、よく聞こえない。歌の歌詞も聞き取れないところが多い。]
(憑依霊ディゴ人の歌4 kubit'a152)
今は、争いだよ、あんたお母さん 癒しの術の争いがあるんだよ 生みの親は子供を困らせなかった 癒しの術の争いだよ なんと、争い 私は争いでひどい目にあった、貧乏という争いで
3864 (再び不手際で、キツィンバカジから憑依霊クァビ人まで、録音できず。もっともこれらの歌のどれでもムベユはいっさい踊らなかった。するとチャリ自身が憑依状態に入り、彼女の持ち歌の一つ、世界導師153の別名とされるジンジャ導師60の歌を歌いだす。)
(チャリのリードを受けて、ただちにマワヤ(mawaya)が引き継ぎ、自らのアレンジで他のカヤンバ演奏者とともに歌う。チャリの元歌をよく知らないため、単純化されている。) (憑依霊ジンジャ導師の歌 kutsanganya151のみ)
うるさい騒ぎ声が聞こえるわ、だって癒しの仕事は 争いがある、あなた、みじめな人 争いがある、あなた、施術師 (これを何度も反復)
(注: 日記の方により詳しく描かれているように、(私個人の印象かもしれないが)チャリはこのカヤンバを駄目にしようとしている(ムウェレを踊れなくさせてしまった)「妖術使い」をまるで探し出そうとしているかのように、蝿追いハタキをもって、場にいる人々の顔を覗き込んでいき、Mwanza氏のまえで、大げさに驚いたような素振りを見せたりして、今にも騒ぎを引き起こしそうで私をはらはらさせていた。)
(チャリはそのまま憑依状態。ムリナがあわてて走ってきて彼女をなだめようとする)
Murina(Mu): さあ、お静まりなさい(または落ち着いて)、友よ。お静まりなさい、お静まりなさい。そして(何か話して聞かせるべきことがあるなら)あなたの仲間たちのために告げること。仲間たちに告げること(さらに3回繰り返す)。このンゴマは子供(施術上の子供)のためのンゴマなんですよ。子供のンゴマなんですから、誰もがあなたにびっくりしちゃってますよ、友よ。なにかあなたが見て取ったことがあれば、仲間たちに話してやってくださいよ、友よ。 Chari: そう、何を喋れっていうんだい?あんたにこのンゴマのことを喋れと?ンゴマならもう打たれているじゃないか。
3865 (ムリナ、突然憑依状態になり、異言(人々に理解不能な言葉)を喋りだす。とても怒った調子で。)
[ムリナの異言の後ろで、人々笑いだしたり、何いってんだかわからないよ、などと言い合っている。]
(チャリの筆頭男性弟子のマワヤ氏があわてて宥めにかかる)
Mawaya(Maw): お静まりください、お静まりください、お父さん。 Chari: ねえ、あんた、ねえ、あんた。私はもうやったって言ってるんだよ。 Maw: いったい何が問題なんだい。 Murina(Mu): (スワヒリ語にチェンジして)。何があるんだ。ここにどんな物があるんだ。ここにどんな物があるんだ。ちょっと待ってろ。(再び異言に戻る) Maw: 何の問題だい。 C: (ムリナに憑いた憑依霊に向かって)ちょっと、あなたは何を約束したのですか、あなた。 Mu: ここにはどんな物があるんだ。ちょっと待ってろ。ピー(不明)を出してやる。 Woman: これじゃあ、今はンゴマは打てないわね。
3866 (ムリナ、なおも怒り狂った様子で、理解不能な言語を喋り続けている。)
Mawaya(Maw): 物なんてなにもありませんよ。 Murina(Mu): (スワヒリ語で)どうして私の仕事をもて遊ぶ? Maw: これはただのンゴマですよ。あなたの子供(施術上の)のための。さあ...
(ムリナ小屋に入って、ローズウォーターを飲み、理解不能な言語でチャリと言い争う。チャリはなおも喚いているムリナを小屋のなかに残して、出てくる。チャリは、憑依状態のまま、マワヤに話しかける)
Chari: ところで、あんた自分の問題をちゃんと調えたかい、あんた。(憑依霊の要求していた)課題を調えたかい?そいつの(要求した)ンゴマは開催したかい? Maw: 私の妻のンゴマですか、私の? C: そうだよ。 Maw: まだ打ってません。 C: あんた、このうえまた何を見たいっていうの?だって、もう(憑依霊によって約束違反の制裁となる出来事を)見せられただろう?さらに別のものを見せられたいっていうのかい? Maw: ああ、そんな!
3867
Chari: さて、私はもう話すまいよ、あんた。やって来て、面倒を引き起こした人がいる。私は話しますまい。 Mawaya: 話してくださいよ、話してくださいよ、話してくださいよ。 Woman: 彼女(Chari)にはあの人を大人しくさせに行ってもらわないと。
(ムリナ、なおも怒り狂い理解不能な言語でわめきながら、小屋から出てくる。チャリはムリナと話し始めるが、内容は(異言どうしのため)理解不能。人々は、笑っている。)
(チャリは水を持ってこさせ、バケツの水を2度ムリナにぶっかける。ムリナ、徐々に大人しくなる。)
Woman: (スワヒリ語で)戦いはありませんよ。おじいさん。もし戦いなら、私たちは全員ここから逃げ出します。もし戦いだというのなら、子供たち(施術上の)は全員逃げるでしょう。そいつ(憑依霊)は放っておきましょう。そいつのことは神に委ねましょう。神様が仕事をしてくださるでしょう。
[注:ここでカセットのA面が終わっていたが、それに気づかず放置してしまったので、この後未録音がしばらく続く]
(チャリの占い1) 3868
Chari: あんたに話してあげようかね、あんた。あんた、私に話して欲しいって言ったよね、どう?あんた、私に話すよう言ったよね。ドゥルマ語で話したら、理解できる?あんた、ドゥルマ語、聴き取れるよね? Mawaya(Maw): よく聴き取れます。 C: 良いかい、そもそも、あんた何をいたしますって言ったんだい。で今、それを放置した結果、子供が腹の中で殺されてしまったんだよ。聴いてるかい。なのに、まだやっていない、あんたは。そもそも、ンゴマの約束をして、あんた、それを打ったのかい? Maw: 打ちませんでした。 C: 仮に打たなかったとしても、打つ約束の日時は決めなかったのかい? Maw: 日時の約束なら、しました。でも実りませんでした(yichifuka159)。 C: もし実現しなかったら、そのこと私に言ったかい、あんた。 Maw: 言いませんでした。 (Chari(憑依霊)、理解不能な異言で喋りだす) Maw: お母さん、私に話して、話してください。先日来、いろんな大問題に見舞われていたんです。私は後悔しているんですよ。
3869
Mawaya(Maw): 話してください。先日来私を見舞った丸太(悪い問題)について話してください。そもそも私は後悔しています。話してください。 Chari: さて、あんたは奥さんを殺されたいのかい、それとも何だい? Maw: そもそも違いますよ。私はそんなこと祈ってません。そんな風に願ってもいません。 C: さあ、私は帰りますよ、もう。またいつの日か、あんたに話してあげるよ。 Maw: いつの日かっていつなんですか!今、話してしまってくださいよ、あなた。 C: いやだよ。踊ろうにも、私には歌もなし。延々と話し続けるだけって? Maw: 皆さん、曲を演奏してくださいな! (演奏者たち、カヤンバを打ち始める) C: やれやれ、あんたたち私に何の歌を打ってるんだい、もう! (演奏中止) Maw: さあ、お母さん、あなたに何の歌(kadziwira160)をあげましょうか、言ってくださいな。 C: 私にはほんのちっぽけな歌をくれるだけかい。あんたたちは私に打ってくれるというけど、来る日も来る日も私がもらうのは「ちっぽけな歌」だけ。私はずっと、(ちっぽけな歌をもらうだけの)ちっぽけな人間。私は他人のおこぼれに与りつづけるだけの人間。そんな私に、あんたのために話を始めて欲しいって?
3870 (チャリ、自分から歌い出す。カヤンバ奏者たち、ただちに従う) (チャリの元歌「憑依霊ガンダ人の歌」)
私はいったいどうしたらいいの 私は喋らない、私は惨めで、私は難儀 私は私の癒やしの術を乞い祈ります 私は惨め、私は惨め 眠ると、私はムルングに祈ります そして今、私はどうしたらいいの 施術師は、惨めで難儀 私は癒しの術を乞い祈ります
(数分踊った後、チャリはムウェレが座る椅子に腰をおろす)
Chari: 盗んじゃったよ。(人々、笑う) ほんのちょっとだけ、あんたに話してやろうかね。この場を完全に立ち去ってしまいましょう。ここには長居しません。 Mawaya: ほんのひと欠片でも教えて下さい。まずは、私が近くに寄ります。 C: でも、もし(言われたとおりに)しなかったら、あんた、ほんとにほんとに最悪な目に遭うだろうよ。もうひどい目に遭わされたんじゃないかい?もし、間違っていたら、違うとお言い。 Maw: もう(ひどい目に)遭わされました。そもそも、いまだに、いったい何だったんだろうと(途方に暮れています)。このカヤンバに来たのだって、お母さん(施術上の)のためだったんですから(さもなければ来なかったでしょう)。
3871
Chari: 埋葬はもうしたのかい? Mawaya: もうしっかりと。だって昨日のことなんですから。 C: 死んだのかい? Maw: この髪の毛は、子供に死なれた髪ですよ161。まだ生え始めてもいないですよ、髪が。ごらんなさい。ツルツルでしょう? C: でも、お前自身が絞め殺したんじゃないのかい? Maw: 死ぬことは、ムルングのことと言います。私はその子を絞め殺したりはしてません。 C: あんただよ。 Maw: 私は知りません。 C: でも、あんた、奥さんは妊娠していた。そして便を縛られてしまった。三ヶ月ものあいだ排便しないでいるようにと。何以来だったっけ。子供が腹の中にいる。子供が腹の中にいるのに、大便もそこにある。子供が焼かれないってことがあるだろうか。 Maw: 彼女は憑依霊に治してもらった。憑依霊に治してもらったんだ。 C: (その前には)奥さんは排便していたのかい? Maw: 妻は排便していませんでした。
3872
Chari: 何の薬で治されたんだい? Mawaya: あなたに治してもらったんですよ。 C: いやいや、私は人の中に入り込んではいないよ。何の薬で治されたんだい? Maw: 憑依霊ドゥルマ人の薬です。 C: 彼女は排便するようになったと。大便そのもの、ぶりぶりと。 (人々、爆笑) C: 彼女は治らなかったかい? Maw: しっかり治りましたとも。私が彼女の中に入った(性交渉をもった)ほどです。 C: 腹のなかの子供は、成熟しなかったかい? Maw: しっかり成熟しましたとも。 C: そこであんたそいつ(憑依霊ドゥルマ人)に何を約束したんだい? Maw: ンゴマです、それも盛大な。 C: ンゴマが開催されるまで、彼女は子供を産まない。もう(出産)が迫っていた。だろう?そう言われなかったかい、あんた。 Maw: お母さん、あなたはそんなふうにおっしゃった。そう、そうおっしゃった。
3873
Chari: さて、子供は腹の中で身体を伸ばした、ピンとね。こうして、今あんたは子供が死んだと言う。死んでしまった、あんた。 (人々ざわめく) C: さて、子供はこんな風に(仕草で示しながら)伸びきった。そもそも産む間近だった。奥さんは、また排便を縛られてしまった。便がほんの少しずつしか出なくなった。 Maw: 私にはなんとも言ってくれなかった。 C: 行って聞いてくるがいいよ、あんた。 Maw: 今更、尋ねに行ってどうなる。もう私の子供は死んでしまったんだから。これからすることを話してください。 C: そう、これからどうしたら良いって?あんた、これからそいつの(憑依霊ドゥルマ人の)ンゴマを開いて、また彼女は妊娠する。そうして彼女が妊娠しても、流産。そしてあんたは呆然。泣きさえするだろうよ。もしあんたがつべこべ言われたくないんだったら、そもそも私は恥知らずなこと(はしたないこと)162を言うために、やってくるんじゃなかったよ。もう、あんたは彼女とそれ(性交渉)をしちゃいけないよ。 Maw: いやいや、話してくださいよ。私は彼女にそれをしますよ。だってしないわけにはいかないから。
3874
Chari: おや、あんたが止められないのなら、私だって止めないよ。 Mawaya: 私はそれをしますけど、やるべきことを話してくださいよ。彼女を治療させてください。私はそれをしますよ。だって彼女がすぐ傍で息をしていると、我慢していられませんから。私はそれをします。だからそのあれについて私に話してくださいよ。 C: なあ、あんた、あんたは自分がンゴマを開催しないって、わかってるんだろ。それだったら、あんたはこう言うこともできたはずだよ。とりあえず(憑依霊に)そいつの椅子だけ与えてやってください、と。さて、彼女が出産し終えるまで。なんで前もってそう言わなかったんだい、友よ。さてさて、ごらん。子供はニョンゴー(nyongoo86)に殺されたわけじゃないし、ムァズル(mwadzulu163)に殺されたわけでもない。子供は憑依霊ドゥルマ人に殺されたんだよ。 Maw: 私はムァズルだと。誰もがムァズルのせいだと言ってますよ。 C: 死んで出てきたとき、そう、もしかして小さな水ぶくれだらけだったってことはなかったかい? Maw: まさにそのとおりです。あの子は。私たち自身が見に行ったのですから。 C: そしてね、言わばまるで(肌の色が)黄色、黄色じゃなかったかい? Maw: タイレ(taire164)です。タイレです。
3875
Chari: おお!憑依霊ドゥルマ人だよ、あんた。そしてマンダーノだよ。 Mawaya: そもそも、臍が腹の中で腐っていた。 C: そう、あんたが腐らせたんだよ、あんた。 (人々、爆笑) Maw: いやいや、私じゃない。私じゃないですよ。 C: もしあんたがンゴマを開催していたら、腐ることもなかったろうよ、あんた。 Maw: 私には知識がないんですよ。(ンゴマは)開きますよ。私には知識がない。私が知っているのは子作りだけ。 C: なんだって?お前はンゴマを約束しなかったのかい、お父さん、あんた。 Maw: 忘れちゃってたんですよ! (人々、大爆笑) C: あんた、忘れちゃってたと。じゃあ、私も分別なしだよ、あんた。そもそも、分別の欠片もない。そうしてお前はまたもう一人子供を(妻の腹のなかに)入れる。そして出てきてしまう(早産)。あいつ(憑依霊)の方にも、故意のいやがらせがある。同じようなことをするよ。
3876
Mawaya(Maw): いやいや、私はそいつ(憑依霊)のために調えますよ。ンゴマでしょう?それともまた別のことも? Chari: そいつのためのンゴマだよ、あんた。それからそいつのための頭飾り(chisingu165)だよ、あんた。ビーズで作った被り物のことだよ。あんたはもう(ンゴマの)約束はしている。早急に開催するのではないでしょ、そうなら、ピング(pingu27)を縫ってもらって、与えるだけでもよかったんだよ。それだけのことで、あんたの奥さんも助かったんだけどね。 Maw: ありがとうございます。よくわかりました、お母さん。調えてまいります。 C: もしすぐに妊娠しないとしたら、あんたの奥さんはこんなふうに(悲しみに)捕らえられる。(我が子に)死なれたんだから。そしてあんたも(奥さんに)死なれることになる。 Maw: いやいや、そんなのは嫌です、私は。そんなのは嫌です。あの病気がちの妻は、たった一人の妻です。それが死んだら、私はいったいどうすれば良いんでしょう。 C: そもそも私は今立ち去るところだったのが、こうしてここでおしゃべりして... Maw: お母さん、今やしっかりわかりました、今はしっかり。 C: だって、今あんたたちはこう言いたいんじゃないかい?あんたたちは私に何が言いたいか?あんたたちは、「彼女(Chariの霊)をあおぎますまい(に対してカヤンバを打ってあげるまい)。こいつは、他人のカヤンバを見て、二度と立ち去ろうとしないんだから」って言いたいんだ。
3877
Mawaya(Maw): いやいや、そんなふうには申しませんよ。そんなふうには申しませんよ。 Chari: 私にゃ、そんな気がするがね。さてもう、私においとまさせてちょうだいな。さあ、握手しましょう。さて、ここでおしっこもします。 People(Pe): (爆笑)いや、それはやめて!あなたがここでおしっこしたら、あんたは汚い人って言われますよ。 Chari: 何かい?あんたたち、ここにいて、おしっこはしないと。うんちもしないと、あんたたち。 Pe: 私たちは、おしっこは裏でしますよ。ここみたいな人前ではしません。 C: そう、なるほど、わたしは便意があっても踊りたいって?わたしは帰るよ。 (人々、笑いながら、てんでにチャリに話しかける) Maw: わたしは妊娠させるのには熱心だけど、治療となると、たしかにやる気がない。ああ、お母さん、とてもありがとう。どうか御主人様!と申し上げます。 Pe: たいへんありがとう。でもどうか治してあげてください。妊娠の知らせを聞いて、逃げ出す。それは駄目ですよ。 Maw: どうか御主人様、と申し上げます。 (カヤンバ再開)
3878 (録音は、いきなりmwahangaの歌に飛ぶ、チャリの占い1以降、ここまでテープは無音)
Mawaya(Maw): ムァハンガだ、ムァハンガだ。 (ムァハンガ31の歌) (カヤンバ演奏を被せる。歌っているのはムベユ) (ソロ=ムベユ) ウシでその人を埋葬します ハーイェ、私、その人を埋葬し終えたの エーエ、まだよ (合唱) ウシでその人を埋葬します ハーイェ、私、その人を埋葬し終えたの エーエ、まだよ (ソロ=マワヤ) お母さん、 まだ(近親者に)死なれていない わたしはその人を埋葬し終えたの、エー (合唱) わたしはその人を埋葬し終えたの その人はベンガンドゥ(人名)のところに帰りました、お母さん、 エーエ、まだよ
3879 [憑依霊ドゥルマ人で憑依] (最初のクスカ(ku-suka150)の曲で、ムベユがいきなり憑依状態。録音は憑依状態のムベユと人々とのやり取りから始まる。ドゥルマ語だが、舌足らずの幼児のような喋り方。例えば「今日(rero)」を "yeyo"と発音するといった具合。)
Mbeyu: 今日かい?それとも今日じゃないのかい? People(Pe): 今日ですよ。 Mbeyu: うまく行ったのかい?それともうまく行かなかったのかい? Chari: うまく行ったよ。ていうか、うまく行くでしょうよ。 (そこにいる別の誰かに)そう、あの女性は、(憑依霊の)草木を採取してくるようにって言われていたのよ。その女性は鍋(nyungu91)を設置しに来てもらった。回復して、ご主人と一緒に畑仕事ができるようにね。癒やしの術の女性というのは、まずは草木を探しに行く必要がある。だから「今日じゃないよ、お母さん。私は「(憑依霊たちを)呼ぶ(憑依霊たちの仕事をする)」気にならないのよ。」ってね。というわけ。166
(ドゥルマ人の歌1 カルメンガラ ku-suka150)
ハヤ、エー、私の名前はカルメンガラ(私はカルメンガラと呼ばれています) 休みましょう、ウェー 私の名前はカルメンガラ ハヨー、ウェー、私の名前はカルメンガラ 災難に巻き込まれてしまったよ、お母さん 私の名前はカルメンガラ 外の問題も知っている、内の問題も知っている お母さん、私は尋ねられる 私の名前はカルメンガラ もしお前が男なら、おいで
(ドゥルマ人の歌2 カシディ ku-tsanganya151) (ソロ)
号泣を知らない人、やって来て歌をごらんなさい お母さん、ドゥルマ人がやってくる (合唱) 号泣を知らない人、やって来て歌をごらんなさい お母さん、ドゥルマ人がやってくる (以上、何度も繰り返し) (ソロ) カシディが惨め者だと知らない人 (合唱) ホワー、ドゥルマ人がやってくる
(さらにドゥルマ人の歌 (kubitaのリズム)が数曲続く。書き起こしていない。)
3880 (チャリ、ドゥルマ人の歌が演奏されている中、突然golomokpwa)
Chari: (叫ぶように甲高い声で)さあ、踊るのよ、私の友だち!(ギリアマ語にスイッチ)どう、聞こえたかい?あんたどうだい? (チャリは突然、別の歌を歌いだす。) C: 遠いよ そう、遠いよ ウェー 遠いよ、そう、私の子供 ウェー (カヤンバ停止) ムニャジは私に言った 遠いよ ヘー 石の心(心が重い?) (カヤンバ停止) Murina: ああ!別の歌だ!
(チャリ、泣きながら歌い続ける)
C: 遠いよ そう、遠いよ ウェー 遠いよ、そう、私の子供 ウェー (カヤンバあわてて演奏開始。チャリの歌をフォロー) 美しい女は私に言った 遠いよ ウェー 石の心
(女性の合唱が自信無さげに続くが、どうも歌詞を知らない様子。チャリの自作の歌詞のようにも見えるが、おそらくは憑依霊デナ(dena80)の歌の変化形だと思う)
(ムリナ、駆けつけてチャリ(憑依霊デナ?)を宥める)
Murina(Mu): さあ、さて、落ち着いて(静まって)、友よ、落ち着いて。私はあなたにお静まりくださいと申しております。そう、しっかり落ち着いて。あの人は逝ってしまったのですよ、あの人は。そして逝ってしまった者については、考えるものではないと言うじゃないですか、友よ。でも、同じくお静まりなさい、あんた。彼は私たちから逃げ去ったんです。あまり彼のことを思わないようにね、友よ。私たちのお父さん(1989年にChariをライカ、シェラ、デナの3人の憑依霊について「外に出し」てくれた施術師ニャマウィ氏)は、この世を去りました。もういません。あなたがムルングによって与えられたものは(なんであれ)、あなたは受け取るしかないのです。私たちはそれを受け取って、ただそれに感謝するだけ。彼は去りました、本当に逝ってしまったのです。 (チャリ(デナ?)はなおも泣き続けている) Chari: (ギリアマ語で)さあ、さて今、あんたたちは歌を打とうとしているのか、それともわしを眺めようとしているのか。わしは動物じゃないぞ。あのンゴマの主(ムベユのこと)のために打ってやんなさい。わしは、惨めさを思い出しただけのこと。もう喋るべきことなどないぞ。 Mu: さて、そう、落ち着いて、落ち着いて。その惨めさは消え去りますよ、我が友よ。すべてはムルングがしたこと。そしてムルングのすることには、反対できませんよ、我が友よ。だから、こんなふうに終わりにしましょう。でも、完全に、お静まりください。 C: ンゴマを打ちなさいな。さあ、あんたたち主(ムベユ)のために打ちなさい。わしは二度と踊りますまい。 Mu: さて、そう、そこまでです、友よ。涙を拭いなさい。あなたも子供みたいに泣かないで。彼はもう死んでしまったんですよ、我が友よ。で、今、私たちには何もしようがありません。私たちのお父さんです。でも彼はこの世の私たちから逃げてしまいました。ムルングに感謝です。沈黙167。だって彼は(ムルングに)チェックを入れられたってわけ。
3881
Chari: さよなら。(カヤンバ演奏者たちに)あんたたち、クツァンガーニャ151はもう打ったのかい、あんたたち。で次は、どの憑依霊(の曲)を打つつもりじゃ? Murina(Mu): あんたたち、まだクツァンガーニャは打ってないよな。あの老人(憑依霊デナ)の。 (チャリ、いきなり一人の男に向かってギリアマ語で語り始める) C: ところで、あんたのお母さん、咳しとるな。 Man1: (同じくギリアマ語で)たしかに咳をしています。何なのか私にはわかりません。 C: お前さんにはわかるまいよ。お前さん、自分の嫁のことも気にかけとらん。母親のことを気にかけるわけが? Man1: ふたりとも気にかけますよ。だって、ふたりとも私のものなんですから。誰を放置したりしましょうか。 C: 人の妻(父親の妻=お前の母親)は咳をして、ときにはゼーゼー息を切らせる。それとも、間違っているかい、我が友よ? Man1: タイレ164です、タイレです。だってタイレですから。タイレです。咳をして、本人もとっても驚いているんです。 C: それとも、もしわしがお前に嘘を言っているんなら、お前はわしが気狂いだ、とか気が触れたとか言うんじゃろうな。 Man1: あなたは全然、嘘を言ってませんよ。あなたは嘘を言わない。タイレですよ。 C: あとで、あんたの嫁の肺について話してやろう。今は、お前の母親のことだ。
3882
Man1: 本人がそう言っていますよ。 Chari: そしてここ、背中の真ん中あたり。 Man1: タイレ、その通り。 C: ときには腰が折れ裂ける。 Man1: タイレ、その通り。 C: この両脚、そう、「私にゃもう我慢できないよ、私にゃ。」ときには両脚、しびれて感覚がなくなる。 Man1: タイレ、タイレ。 C: お前さん、お前のもつ人手168全員が、畑仕事できないようにと願っとるんじゃあるまいね。どうじゃ? Man1: それこそ私が面食らっている問題です。すでに誰も畑仕事していないんですよ。 C: さて、もう一人、泣いてばかりいる彼女、彼女もいずれ水に自分を沈める(自殺する)だろうよ。もしお前が彼女のために施術師を探してこなければね。 Man1: 泣いてばかりいる人? C: 施術上の母に死なれて泣いている人がいるんじゃないかな? Man1: 泣いていました。そう昨日だって、泣いていました。
3883
People(Pe): タイレ。 Woman: (必要な)施術師はあんただ。タイレですよ、お母さん。 Chari: 彼女は施術上の母に死なれた。今は彼女の母は誰もいない。そうとも。彼女は(死んだ施術上の)母につきまとわれて、すっかり死んでしまおうと、水に自分を沈めに行くだろうよ。わしはもう帰るよ。 Man1: 彼女は昨晩も泣いていました。タイレですよ。お母さん。 C: 一昨日だけじゃない。昨日もひどく泣いていた。 Man1: (周囲にいる者に)4シリング貸してくださいよ。この母さんに差し上げます。 C: その4シリングで、わしに何をしろと言うんだい、いったい。 Man1: タイレのお金じゃないですか、お母さん。 C: その4シリングも、お前は人から借りようとしている。一体誰に貸してもらおうってんだい? Man2: ところで、その昨日泣いていた者は、どうすればいいのですか。お母さん。 C: お前たち、彼女のために母(彼女を治療してくれる施術師)を探してこなくちゃな。彼女の施術上の母を探してくる。薬液(mavuo169)が必要なんじゃよ。そして唱えごとをしてもらい、飲む薬をもらう。彼女はひどい頭痛と悪寒があるからな。
3884
Man2: タイレです、お母さん。タイレです。 Chari: 彼女は母親(施術上の)に死なれた。でも会いに行かなかった。その母親の服喪(hanga)にすら行かなかった。さらに、母が死んだ際に浴びるための搗き臼(に入れられた薬液)も設置してもらわなかった。彼女の母親だったのに。まるで彼女を産んだ母親のようですらあったのに。友よ、なんでお前はこの女性を殺したいんじゃ? Man2: タイレ、そのとおりです。 Woman2: この人、ギリアマ人の長老みたい。(女たち哄笑) C: あんたら人を殺したいのかね、どうだね。さて、私の友よ、彼女のために別の母親(施術上の)を探してきてやれと言っておくよ。そしてその別の母親がほしいのなら、うむ... (突然歌い出す) 遠いよ、そう、遠いよ 遠いよ、つまり、そこ、我が子よ、ウェー 美しい女は私に言った、呼ばれているよと、エー
C: そう、わしゃ、ンゴマは二度と嫌いじゃ。わたしゃ、お前に言っておきたい。わたしゃ、他人のンゴマは嫌いじゃ。
3885
Man2: さあ、私に話してください。 Chari: あんたら、わしを困らせたいのか?(kuchukaはギリアマ語で「困らせる、面倒をかける」の意) Man1: いえいえ、ただ話していただくだけです、お母さん。 C: ところで、あんたこの kuchuka って言葉知っとんのか? Man2: kuchuka という言葉、私はまったく知りません。 C: わしゃ、他人のンゴマは嫌いじゃ。あんたら、もう私を困らせるな。 (チャリ、再び歌い出す) 遠いよ、そう、遠いよ 遠いよ、エエ、我が子よ、ウェー 私は食べられる、遠いよ、石の心 Man2: その歌、我が友よ、私はそれをまったく知りません。 Man1: あなた、お母さん... (チャリ、別の歌を歌いだす) 私は嫉妬された、癒やしの仕事は闘争だから 私の癒やしの仕事 今、私は泣いている、お母さん話して 癒やしの仕事が私を食べるでしょう (以上2回反復) C: わたしゃ、ンゴマが嫌いじゃ。あんたらに、耳をおっ立てられんようにな170。彼女のためにお母さんを探してきてやりな。薬液(mavuo169)と煎じる草木、しっかりと唱えてもらうのじゃ。ほんとうにしっかり、しっかりとじゃな。嘘じゃなく。
3886
Chari: できればな、ちょっとしたキザ(chiza23)を置いてもらえばな。その後でちょっとしたカヤンバ、彼女の(施術上の)お母さんも、そのおでこをもっていることになる(その場にいることになる)。「この人がお前のお母さんだよ。(前の)お母さんは死んだんだ」と告げるためだ。というのも彼女(あるいは、彼女のなかの憑依霊)は、その人がおでこをもっている(その場にいる)のを見る。それは彼女の母(施術上の、死んだ)ではない。お前は(憑依霊に)こう言われるだろう。「あんたのお母さんは、この人じゃないよ」ってね。彼女(新しい施術上の母)はお前を怖がらせないだろうか? Man2: お前を怖がらせるでしょう。そのとおりです。 C: たとえ、彼女の目がでかくなくても、お前には彼女がでかい目をしてるって見るだろう。たとえでかい鼻をもってなくても、お前は彼女の鼻がでかいと見るだろう。だって、彼女のあの母親(死んだ施術上の母)はとっても美人じゃったから。さてさて、例のちょっとしたカヤンバ、それにちょっとした搗き臼、それに彼女の(新しい施術上の)母に与える8シリング。あんたがたが、彼女を買うためのな。 Man2: その8シリングを差し出すのは、この子供(施術上の)ですか? C: 8シリングを差し出すのは、ほれ、あの人だよ。そう。 Man2: (患者の)母親がですか?
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Chari: あの亭主自身がだよ。 Man2: なんと、夫自身。つまり屋敷の主がですか?8シリングを出して、その施術師を買う。つまり彼女を買う? C: そうじゃ。「お前の母は死んだ。お前の母は死んだ。そして人はその母に死なれると、別の母を手に入れる。この人がお前の母親だ。逝ってしまった者は帰らないのだ、友よ。もしお前が母がいないがゆえに泣いていたのなら、この者が、そういまやお前の母だ。」彼女(新たに施術上の母となった者)もな、4シリング差し出す。「我が子よ」「はい」「お前の母さんは私だよ」。そう、彼女は言わば飾りの(追加された)メソモ(mesomo171)みたいなもの。こうして彼女(患者およびその憑依霊)はその人に馴染むんじゃよ。でも、もしこうしなかったら、彼女はなにもかもいやになってしまう。果ては水の中に自らを沈めてしまうことになる。あんたらは、彼女をしっかり立たせてあげなけりゃならんのさ。 Man2: 彼らがそうやって馴染み合うようにですね。わかりました。 C: 以上、そういうことじゃ。わしはお前にこんな風に話してやるだけじゃ。(Man1に向かって)でも、お前の母親は咳をしておる。 Man1: ひどく咳をしています。それには私は何をしたらいいのでしょう?私はそう尋ねていたのに、あなたは別の話題に跳んでしまった。
3888
Chari: そもそも、お前は彼女を扇いだ(彼女のためにンゴマを開いた)のかい、あんた。お前の母親を扇いだのかい?「重荷おろし」はやってあげたのかい? Man1: ああ、私は彼女を扇ぎましたし、重荷も降ろさせてあげました。施術師は実家のほうの者たちです。 C: さてさて、なんであんたはチョーニ語を喋っとるんじゃ?(注: Man2はうっかりチョーニ語の単語を用いてしまっていた) Man2: ああ、私はギリアマ語はそんなによく知らないんです。 C: ギリアマ語をよく知らんとな。あんた、ここギリアマで生まれた者なのに、ギリアマ語を知らんとはな172。さて、一つだけあんたに言っておきたいことがある。あのマサイ人の鍋を彼女に置いてやったかな。(もしそうしていなければ)あんたは他人に属する人173を、いまにも殺すことになるぞ。 Man2: 彼女はマサイ人の鍋は置いてもらったことが在りません。それは確かです。 C: マサイ人の布はあるかい? Man2: マサイ人の布は、彼女は以前もっておりました。ずいぶん昔に、敗れてしまいました。 (人々笑う) C: それじゃあ、彼女のために布を買いに行ってやりなさい。それから(マサイ人の)護符キブェレ(chiphele174)と、マサイ人の棍棒もね。さらに槍も必要とされているぞ。
3889
Chari: ときに、彼女、胸のわきがトゲを刺されたみたいに痛いんじゃないかい。息切れもひどい。さてさて、おいとまするよ。 Man2: タイレです。つまり、護符キブェレと、マサイの布、それから鍋でしたっけ。 C: マサイの棍棒もな、その後で、マサイのちょっとした鍋じゃな。ああ、わしゃ、おしゃべりじゃな。そんなつもりじゃ... Man2: 友よ、おしゃべりじゃありません。おしゃべりなんかじゃ。 C: それ以外にも、あれやこれや、もし、あんたが従っていかなかったら、あああ。こちらのあれこれは、お前の母さんたちに関するもの、でもこちらのあれこれときたら、はあ。 Man2: 友よ、そんな風に言わないでくださいよ。頑張って調えに行きますよ。だって私は疲れて、もうぐったりなんですよ。 C: あの人には、けっこう昔からのライカ(malaika63)たちがいるし。子供たちともども病人だよ。子供はだれもかも、健全じゃないしな。 Woman: (Man2に向かって)あんたたち、どうせこの後、ミトゥンバ(mitumba175)のところへ行くくせに。 Man2: ミトゥンバなんて、なしです。お母さん、あなた、人聞きの悪いことを。私たちにはミトゥンバなんていません。そもそも私たちはそんなのは卒業しました。私たちはもう老人。長老なんですから。 Woman: ご老人たち、昔々ね、思い出すんじゃない。ムァルブァンバ(Mwaluphamba176)のミトゥンバ。
3890 (憑依霊ドゥルマ人の一連の歌の途中で、ムベユ、憑依霊ディゴゼーに憑依され、ムリナとやり取りする) (ムベユ、すっかりかすれた声で、泣きながら訴える)
Mbeyu(Mb): 子育て、私、あんた。 Murina: あんた、子供のいない人はいるだって?ああ、どうしてそんなに早々に諦めようとするんだい。飢餓に負けたのかい、それとも病気に負けたのかい? Mb: いやいや、あんた、母親のいない子供たちよ。 Mu: 母親のいない子供たちだって?どうやって母親がいないことになるんだ?
(ディゴゼーの歌、書き起こしは不正確(会話が同時に進行中で歌詞が聞き取りにくいため))
ディゴゼー、ウェー、エー、ハーイェ 搗き臼で搗いたり、石臼で挽いたりも大仕事 争いを見に来てごらん
(ディゴゼーの歌が演奏される中やり取りは続く)
Mu: ちょっと、ちょっと。年少者をもたない人間などいないよ、あんた。ちょっと。その女性が自分の子供を連れて行くの、邪魔しないで。諦めないで、諦めないで、あんた。諦めないで。絶対、諦めないで。女性が、自分の子供を連れて行くのを邪魔しないで。どうして諦めてしまおうとするんだい、なあ私の友よ。何に負けるっていうんだい、さあ。子育てなんて些細なこと。畑仕事をして、子供たちはご飯を頬張る。子供たちは。 Chari: 彼女にディゴ人の歌を打ってあげなさいよ。その後でシェラを。ああ、もう、あんたたちどうしたの? [カセットテープ終了]
(ムァンザ氏の妖術に対するキャンセル施術) 3898 (mutsunga ng'ombeに対する唱えごと)
Murina: 私はお前に告げる。お前ムツンガ・ンゴンベよ。ムツンガ・ンゴンベはお前だ。ウシを追うものを、そして生まれ来たるものを、お前は追い導く。お前は北の者を追い導く、南の者を追い導く、西の者を追い導く、東の者を追い導く。4つの方角全て、お前は追い導く。 お前、ムシシムロ、ムシシムロはお前だ。かき立てる者(usisimulaye)、おまえよ。洞窟に棲まう者をかき立て、池に棲まう者をかき立て、海岸に棲まう者をかき立て、樹上に棲まう者をかき立てる。バオバブに棲まう者をかき立て、分かれ道に棲まう者をかき立てる。お前、ムシシムロよ。 ニャマガナ(直訳すると100の憑依霊)はお前だ。お前一人を除けば、この世に人と張り合う者はない。今、行って憑依霊をかき立てよ。霊は脚には棲まわず、霊は膝には棲まわず、霊は腰には棲まわず、霊は腸には棲まわず、霊は胸には棲まわず、霊は腕には棲まわず、霊は手には棲まわず、霊は肩には棲まわず。
3899
霊は頭に棲まい、霊は分別に棲まう。霊は這いながら後頭部に至り、霊は頭頂部に立ちて、言葉を告げる。 さあ、行ってこの者を刺激せよ(ukamuchichimule177)。お前は刺激する。洞窟に棲まう者を刺激し、池に棲まう者を刺激せよ。水に棲まう者を刺激し、海に棲まう者を刺激せよ。お前、ムシシムロはお前だ。さあ、今、徹底的に刺激し、一人ひとりの憑依霊を、正しく配置せよ。 [唱えごと終了] Murina: さあ、(その根を)噛みます。それが済んだら、あなたはプッ、プッ、プッ(唾液をムウェレの胸に、背中の中心に、肋骨の両脇に、頭頂部に、前額部に)吐きかけます。そうして彼女を冷やすのです。その後で、唾液を吐いたところに、息を吹きかけます。それが済むと、こんな細い小さな棒を彼女の髪の毛の中に差し込みます(unamutsomeka)。そのままにしておきます。この小さな棒こそ、彼女を踊らせるものなのです。
3900
Murina: さて、たとえ人(妖術使い)が憑依霊を捕らえたとしても、憑依霊たちを縛ったとしても、結局彼の手には負えません。憑依霊たちは力強く(rafu=rough, Eng.)やって来て、彼を振りほどいて、踊りに行くでしょう。さて、そうしておいて、あなたは小枝(katai)を彼女(ムウェレ)にもってきてやるでしょう。彼女にうんざりするをやめて(?178)、彼女を(その小枝で)鞭打ちます。背中の真ん中あたりを打ちなさい。脚を打ちなさい。膝を打ちなさい。胸の両脇を打ちなさい。頭を打ちなさい。分別を打ちなさい。そして小さい棒をこんな風にもってきて、それを折り、遠くに投げ捨てます。 Hamamoto: それで問題がおしまいになる? Mu: そう。彼女を妖術返し(kuphendula)終えたのです。さあ、さあ、ンゴマを打ちなさい。 H: なるほど、では先日のあのンゴマは、前もってすでに妖術返しされていたんですね。 Mu: そうですとも。