前日のムァダル氏によるムラムロ占い(mulamulo1)において、その前々日の9月6日にチャリが首を吊って自殺を企てていたことが明かされ、私はびっくりした。その日の午前中に私はチャリたちから二人の結婚の経緯を聞き、チャリが若い頃取得した身分証明書を見せてもらったりしていた(1991/09/06 Fri, jummaの日記より)。その後、午後に自殺を企てていたことになる。
そのムラムロ占いの勧めに従って、占いの翌日にさっそくチャリに対して掛けられた妖術フュラモヨ(fyulamoyo3)の治療として、妖術関連の施術師でもあるムリナ氏自身による妖術返しクブェンドゥラ(kuphendula4)が行われることになった。ムリナ氏が他の妖術の犠牲者に対して行ったクブェンドゥラは何度も見る機会があって、フュラモヨのクブェンドゥラは、浜本 2014『信念の呪縛:ケニア海岸地方ドゥルマ社会における妖術の民族誌』でも紹介している(pp.130-142)。クブェンドゥラは妖術治療の基本で、他にも「トゲの妖術」「ハリネズミの妖術」「ムコモの妖術」「テゴの妖術」などのクブェンドゥラも見る機会があったが、施術はすべて基本的には同じ手順に従っている。上記の著書では施術の大まかな紹介にとどまったが、折角なのでここではほぼ全データを提示することにする。
当日(1991/09/09)は早朝からムリナたちの屋敷を訪問したが、キナンゴへの買い物を頼まれ、戻るとチャリはいつものように占いムブルガ(mburuga2)をしていた。2件の占いが終わり、チャリへの施術はその後で始まった。次の日記の記述からもわかるように、施術師の日常そのもの、平常運転で、深刻さの欠片もなかったのは意外。
(from diary of Sept.9, 1991,Mon,kpwisha50)51
チャリのところに寄ってからキナンゴに行き、頼まれた買い物を済ませて戻ると、ちょうどmburugaの真っ最中。二組録音。どちらもよく当たる。...(中略)...その後すぐ、チャリ自身に対するkuphendulaをはじめるということだったので、そのまま残る。いっしょにmihi19を探しに行く。帰ってきてすぐvuo31の用意をし、kuphendula。ムリナは真剣だが、チャリは機嫌よく冗談などを飛ばしている。しかし、実際にはチャリが首をくくろうとしているところを発見されたという出来事が背景にあるので、このkuphendulaでもchiryangona52としてロープ(浜本注 2026/09/29: ロープと言っても施術で用いたのは首吊りにはとても使えそうにない細紐だった)を用い、木の枝に引っ掛けてそれをチャリの首に結び,kuphendulaするという趣向になっていた。笑い事じゃないぞ。 終了後Zu...さん(浜本注 2026/09/29:別の施術客)が来るが、カタナくんが腹を空かせて待っているに違いないので(もう2時だった)出された昼食を辞して帰宅。
(from fieldnote of Sept.9, 1991,Mon,kpwisha50)53
(1)アリ塚(koro)を鍬で崩して掘り、muzi127 wa koroni を採る。 まず掘り崩し、根をつかんでChariがkugomba128。その後、掘り出す。 蟻塚での唱えごと
(2)muhini19 kakpwaju(makodzage129)65 munyumbu(makodzage)61 muvumo(makodzage)130 mutserere(makodzage)62 mulozi131、 makokoteri135しながら 頭の中でfilimbi139のような音がする muvunzakondo(makodzage)140 mulindi(ng'ondu)根 143 mwadiga 根 144 muzuka12の木でもある munyala 145 mukone 56 mugoza 119 muyu 146 mkengeja(gendanalufu)67
(3)ndala147で葉をバケツの水の中で揉み潰しながらmakokoteri135 薬液作りの唱えごと
(4)ndonga44を左手に持ち、右手の掌に打ちつけながらmakokoteri
瓢箪のなかの薬に対する唱えごと
ndongaの中の黒いmureya153を(3)のvuoに加える
mulindiの根をchinu154で潰したものを加える
(5)ndongaの黒いmureyaで地面に図(muhambo=罠)を描きmakokoteri
トウモロコシの粉でまず描き、それに沿ってmureyaの粉を撒く。罠の中程に布で包んだmuhasoを置く。そして図の頭部と脚部にそれぞれ人頭の瓢箪とmureyaの瓢箪を置く
罠に対する唱えごと


(6)Chariを罠の上に足を投げ出して座らせる 施術開始の唱和
k'uk'u wa kundu155 反時計回りに7周、毛を毟りながら
鶏の足をもってvuoに漬け、Chariに振り掛ける
その後Chariの身体のいろいろな部分(腕、胴、脚)の周りを撫でるように巡らせる
この鶏は屠られない
赤い(褐色の)鶏に対する唱えごと
k'uk'u wa chidimu155 時計回りに6回
鶏は屠られ、チャリの頭越しに外に投げ捨てられる
鶏は左を下に、頭を屋敷の外に向けて倒れる(吉兆)
逆毛の鶏に対する唱えごと

逆毛の鶏を頭の上に置いて唱えごと。その後、鶏を薬液に浸して羽を毟りつつ周回。チャリの首には紐が巻かれ、その端は左手の木の枝に結びつけられている。
k'uk'u mwiru155 羽を毟りつつ、反時計回りに5回
k'uk'uをチャリの身体の各部分にこするように回す
k'uk'uの蹴爪を切り落とし、切り口から出る血をvuoに
k'uk'uをvuoに浸けて、それで薬液をチャリに振り撒く
Chariの頭の上に乗せる
(黒鶏(力(nguvu)の雌鶏)はそのまま屋敷で飼われる)
Chariの首に掛けられていたmukowa156を切る
黒い雌鶏に対する唱えごと

首に結んであった紐が切断され、頭の上に置いた黒い鶏の上から薬液を注ぐ。
(7)Chari、全身をvuoで洗う
(8)Chari立ち上がらせられ、手を強く振る、脚をキックするような動作
(9)その後、vuoの残りに水を足して、地面に描かれた罠(muhambo)を洗い流して消す。
(10)ndalani147でチャリにkutsodza101を施す
各パラグラフ冒頭の数字をクリックすると対応するドゥルマ語テキストに飛びます。ブラウザの戻るを用いて戻って下さい。
2909 (屋敷の外の蟻塚にて。ムリナ、蟻塚の中に延びている木の根が見えるまで蟻塚を掘り崩す。)
Murina(Mu): その根をつかんで、あなたが述べたいことをお言いなさい。私が根を掘り出すから。 Chari(C): さて、私はお話します。このような時間にお話することもなかったでしょうに。私がお話するとすれば、私は私の癒しの術(uganga)のためにお話するのです。私の癒しの術のためにお話するうえで、まず私は他人に悪をなしてはいません(字義通りには「私は他人に対して罪はありません」)。私は他人に悪をなしてはいません。私は癒しの術の人です。そしてこの癒しの術とともに、私は今こうして、ここキナンゴ(サブロケーション157)にやって来ました。キナンゴにやって参りますと、大勢の人がその癒しの術に詰めかけてまいります。なんとドゥルマ人というものは、そういうのを嫌う(嫉妬して憎む)のです。今では私は妖術をかけられてばかりの者になってしまいました。 そう。私はお話いたします。私は夢の中で、(情報を)与えてもらいました。私は言われました。「お前自身も、お前の癒しの術も、蟻塚のなかに置いてこられた。地下世界に置かれてしまったのだ」と。今日、このときに、私はやって参りました。私はムリナとともにここにやって参りました。ムリナも癒しの術をもっておりますし、私もまたもっております。私の癒しの術はここに閉じ込められてしまっているのです。
Chari(C):(つづき)なぜなら私はこんな風に言われているのです。「ああ、こいつは癒しの術を手に入れた、そいつの夫まで同じように治療している、それはこの女が占いを打つからじゃないか。よしこいつの癒しの術を封じてしまうぞ。その癒しの術が死ねば、彼らの癒しの術は取るに足らないものになるだろう。さあ、こいつ、驚き途方に暮れるがいい。だってこいつは傲慢(ngulu159)なやつだから、こいつは。」 今日だって、私自身、そんな風に言われたのよ(たぶん夢でだろう)。だから今、そうよ、私はここにやって来ました。そしてムリナもいっしょに。私たちは私たちの癒しの術を取り返しにきました。私たちの友人もいます。証人です。私たちの子供(施術上の子供)、そうカリンボ(浜本)です。彼も、私が話すことを理解しています。この者は遠方の人です。たぶんムルング39が私たちが一緒に癒しの術を取り戻しに来るように、定めていたのでしょう。 さて、今日、今、私は、お前この根よ、私がお前を採り、細かく削って、それを燻し浴びれば。そう、大繁盛(pakapaka)です。病人たちが締め出されるのは嫌です。私は病人たちがやって来るよう、お金をもってやって来るよう望みます。やって来て(料金が払えずに)借金する病人じゃなくて。私はお金が欲しいのよ。私のお金は稼ぎです。癒しの術を私は今たしかに取り返しました。もしそれが蟻塚の中に置かれていたのだとすれば。
2911 (ムリナ、薬液を作りながら唱えごと)
Murina(Mu): (冒頭部は口のなかでもごもご唱えごと、まったく聞き取れない)...お前の仕事は冷やすこと。サラマ、サラミーニ160。冷しの草木たちは、どいつもヌルヌル(nyunyu161)している。先日のこのフュラモヨ、こいつは今日には、そうすでに過ぎ去ったもの(字義通りには「昨日、一昨日のこと」)。今日、今は、私はそいつを冷したと断言した。あなた方、冷しの草木(mihi ya peho55)によって。ヴンバ(Vumba:タンザニア・ペンバ島の一地方)(の妖術)をお前は冷やす、ボンデ(Bonde:渓谷、湿地、タンザニアの地名の一つ)(の妖術)をお前は冷やす、ダルーニ(Daluni:タンザニアの地名)(の妖術)をお前は冷やす。マシュア(Mashua:タンザニアの地名)(の妖術)すらお前は冷やす。ヴンバのそれを冷やす、冷やす。山のそれも冷やす、小人族(mbilichimo94)のそれも冷やす、トゥンバトゥ(Tumbatu:ザンジバル島北部の島)のそれも冷やす。アーメン。 草木は戦いあう。草木と草木、出会うと必ず戦うべし。草木はしのぎあう。今、私は命じた。打ち負かせと。お前、草木よ。サラマ、サラミーニ。
2912 (黒い薬の入った瓢箪を手の掌に打ち付けつつ唱えごと、冒頭部は同様に口のなかでつぶやくように発されるため、聞き取れない)
Murina(Mu): さて。犀のフュラモヨ162があるという、象のフュラモヨがあるという、野牛のフュラモヨがあるという、コウモリのフュラモヨがあり、ムジム(muzimu163)のフュラモヨがあり、雷のヘビ164のフュラモヨがある。ジメネ(dzimene165)の、ムバユムバユ166の、ムボングウェ167の、ジメネの、フカラ168の、ドゥワ169のフュラモヨがある。 この人、チャリは過去に妖術にかけられた、そしてまたチャリは妖術にかかっている。そう彼女は妖術をかけられているが、それは罪だ。チャリは人の食べ物を食べない(他人の富を横取りしたりしない)。チャリは単に人。この人には、施術の持ち主である祖霊がいる。そうした(祖先の)施術師たちがやって来て、チャリに癒しの術を与えたのだ。チャリ自身は癒しの術がいったい何なのかを知らなかったほど。でもドゥルマ人たちは、そう、今や彼女に嫉妬の目を向けている。(嫉妬のあまり)夜も眠れず、昼も落ち着かない。チャリの名前とともに昼を過ごし、チャリの名前とともに夜を徹する。いったい何のせいだろう。チャリだ。彼女の癒しの術が死にますように。さらには彼女自身も死んでしまいますように。 ねえ、彼らはムルング39ではないのに。やつらはムルングと打ち合わせたわけではないのに。
Murina(Mu):(つづき) さて、私はお前を盗んではいない、お前、草木よ、使役される者よ。草木はその父親に使役される、草木よ、お前はその母親に使役される。お前には父はいない。お前の父は、他ならぬ私だ。お前に母はいない。お前の母は他ならぬ私だ。なぜなら私はお前を盗んではいないから。私はお前を私の金で買った。私はお前を、マンガレ・ワ・ンゴメから買った。さらにお前を、カチュンガ・ワ・ベカンガ・ムンガから買った。次いで、お前をルワンボ・ワ・バヤから買った。さらにお前をズマ・ワ・ンゴマから買った。サラマ、サラミーニ。 (ムリナ、彼の娘タブ171に話しかける) Mu: そこにある切り株が見えなかったのかい? Tabu(T): 見えなかったわ。 Mu: ああ駄目だ。お前さんは、この木のことを知らない。 Chari(C): その子、それを知らないの? T: バオバブの実を摘む、あのバオバブの木でしょ? Mu: バオバブの実は知ってんだ。
2914 (地面に描いた「罠」に対する唱えごと)
Murina(Mu): サラマ、サラミーニ。草木(muhi19)よ、奴隷よ、使役される者よ。お前は捕らえよと言われれば、捕らえる。お前は離せと言われれば、離す。今日、今は、そうチャリだ。チャリは悪しき言葉で打たれた。その悪しき言葉が、それを行ったのが女であるのか、男であるのか、私は知らない。私は、ただチャリを冷やせればと願う。そして今日この日、お前フュラモヨによって。 お前、雷のフュラモヨよ、ンザイコ(nzaiko172)のフュラモヨよ。ンザイコ雷、ンザイコ・フュラモヨ。ムジム(muzimu173)のフュラモヨがある。兎のフュラモヨがある。犬のフュラモヨがある。猫のフュラモヨがある。雷のフュラモヨがある。コウモリのフュラモヨがある。ワニのフュラモヨがある。お前、ワニのフュラモヨはお前だ。お前が捕らえた人は、水の中に潜り込む(入水自殺する)。その人の人生はワニの人生だった。本来、人間はそんな生き方はしない。チャリは、まさにそうあれと(妖術使いによって)唱えられているのだ。
Murina(Mu): チャリはコウモリのフュラモヨも(妖術使いによって)与えられた。ロープで自分の首を吊るフュラモヨだ。さらにムベガ(アビシニア・コロブス猿)のフュラモヨもある。ムベガは地上では暮らさない。ムベガは上の方で(木の上で)暮らす。チャリは上にいるように(動転して落ち着かないように)と唱えられたのだ。まるで生きているのに死んでいるかのようにあれと(字義通りには「中(この世の)にいるようで、そこにいないかのように」)。 私は申し上げる。私は癒し手ではないと。癒やし手本人はムルングだ。私がすることと言えば、きちんと整える(ku-sawazisha174)ことだ。そしてチャリの心(roho)を、それが(妖術使いによって)置かれた場所から救い出すことだ。 私はお前たち草木を買った、そう、私の目的のために私はお前たちを買ったのだ。何の目的だって?友がこのような難儀に陥っているのを見たとする。さあ、私はこれらの草木を摘み採って、その人を治療するようにと。チャリを。そして今日、今、私はお前たち草木を摘み採った。チャリのために摘み採ったのだ。チャリがこれらの草木で打たれるとき、チャリの身体が涼しい風に打たれますように。彼女が涼しい風に打たれますように。あのフュラモヨが、彼女から出ていくことができ、チャリがロープで自分を試すようなことは、なし。
Murina(Mu): (つづき)お前、ロープのフュラモヨよ、ナイフのフュラモヨよ、マチェーテ(mundu175)のフュラモヨよ、自動車のフュラモヨよ、フュラモヨよ。さらに飛行機のフュラモヨもある。ムチャンダ・クラン(muchanda)のウシ囲いのフュラモヨもある。水のフュラモヨもある。蛆虫のフュラモヨも、ヘビのフュラモヨも、コウモリのフュラモヨもある。フュラモヨ・ピンダモンゴ(pindamongo176)も、ジメネ165も、ムバユムバユ(mbayumbayu166)も、チャリカ(charika177)もある。 お前、チャリカが(その中で)踊られる場所がある。お前、キブンブンブ(chibumbumbu178)、女たちの太鼓。お前は踊られることなし。踊るのは女たち。 ジメネ(自己嫌悪)、発狂する者、裸で歩く者。お前たちは裸だ。お前、お前はとってもたくさんの問題を引き起こす。大便のなかの大便。お前には屋敷はない。お前には畑もない。お前の父の肛門、お前の母の肛門。 お前、フュラモヨよ。どんな仕方で呪詛される(kpwapiza179)のか。お前はマチェーテ(を媒体=chiryangona52として、それで自殺するよう)呪詛される。お前はロープで呪詛される。お前はナイフで呪詛される。お前は何で呪詛されるのか?斧で呪詛される。
Murina(Mu):(つづき)お前は何で(何を媒体として)呪詛されるのか。お前は自動車で呪詛される。さらにお前は何で呪詛されるのか。お前は高い木で呪詛される。お前は登り、手を離し、落下する。お前は水で呪詛される。 今日、今、私はチャリを治療する。私は。チャリその人は、他に所有者はいない。所有者は私一人だけだ。そして私は、今日、今、たとえもし奴らが私とチャリが仲違いするようにと唱えていたとしても、そいつらは疲れた、疲れ切った。なぜなら、お前フュラモヨを私は治療し、すっかり無くしてしまったからだ。だから、やつらは私と虚しく対抗しあっただけだ。やつらは、やつらの煎り炒めたもの(薬)で私に対抗した。私の方は生(なま)のもの(生の薬=草木 muhaso witsi)だ。こうして今日、今、私はここ私の屋敷において、フュラモヨを冷やす。人々よ、おおいに笑い、笑うがいい。私は笑いと談笑を好む、わはは、わはは。それこそが良きこと。それこそ私が欲するありかた。人間はそんな風に暮らすものだ。なぜなら争いは屋敷を築かないのだから。
Murina(Mu):(つづき) お前、断裂キコモ(chikomo180)よ、夜に昼に閉ざす(ku-komeka=(ス)ku-komea)者よ。今日、今、お前キムチャフオ(chimuchafuo182)よ、駄目にする(ku-chafua)者よ。お前、キディニャ(chidinya183)よ、キディニャはお前、キクヮタ(chikpwata=棘のある実をつけるアカシア・エトバイカの木184)だ。キクヮタは、どんな人でもお前の近くを通ると、お前のそばを通ると、その者をつねらずにはおらない。お前は人に嫌がらせをする者。そして人に嫌がらせをする者は、お前ムヴンザコンド(muvunzakondo140)だ。そいつこそ、お前、ムァンガキツワ(mwangachitswa185)だ、ムァンガキツワ。お前は人の頭を(妖術的に)襲う(kpwanga186)よう言われた。耳鳴りがする。心臟は激しく動悸を打つ。心臟は破裂する。お前、キクァクァラ(chikpwakpwara187)よ、小雨季に轟き、大雨季を締めくくる者。大雨季に轟き、小雨季を締めくくる。今、チャリの身体より出て、あちらの海でトカゲウオ(ngoromwe188)を喰らえ。海を出て、内陸の荒蕪地に言って、エランドやシマウマを喰らえ、お前フュラモヨよ。 (唱えごと中断) Mu: (娘のタブ(Tabu)に向かって)ちょっと、私の瓢箪を取ってきてくれよ。 Tabu(T): どこにあるの?
2919 (唱えごと再開)
Murina(Mu): チャリ、犀のフュラモヨがある、象のフュラモヨがある、野牛のフュラモヨがある。ライオンのフュラモヨがある、犬のフュラモヨがある、ネズミのフュラモヨがある、ジメネ(dzimene165)のフュラモヨが、ムバユムバユが、そしてさらに憑依霊のフュラモヨもある。さらにジネ(jine77)のフュラモヨが、雷のフュラモヨが、ロープのフュラモヨが、ナイフのフュラモヨがある。 さて今、私はお前、草木、奴隷、使役されるお前に話している。お前は、捕まえよと言われれば捕まえる。お前は離せと言われれば、離す。今、チャリから手を離せ。チャリに妖術をなしたあの者たちが、女なのか、男なのか、私はそいつらを知らない。そしてやつらは、そう、本当の罪人たちだ。本当の罪人たちだ。チャリを嫉妬するべきじゃなかったのだ。今日、今、私はお前を鎮める。今日、お前には父はいない。お前の父は他ならぬ私だ。今日、お前には母はいない。お前の母は、他ならぬ私だ。
2920 (唱えごとつづき)
Murina(Mu): 子供は父親から言われたら、聞きわける。子供は母親から言われたら、聞き分ける。では今日、今、離しなさい。 私はお前を盗んではいない。私はお前、草木を盗んではいない。私はお前をマンガレ・ワ・ンゴメから買った。そして、さらに私はお前をカニョンゲ・ワ・ベカンガ・ムンガから買った。そしてズマ・ワ・ンゴメから買った。ロンブ・ワ・バヤから買った。そして今日、今、私が遣わすとおりに、遣わせよ。ではこれをしっかり聞き分けよ。チャリが再び心臟に打たれることは、なし。もし彼女が上にあるとすれば(動転しているとすれば)、私は彼女を下に降ろした。彼女がどこかに置かれていたとすれば、私は彼女を下に降ろした。彼女が洞窟のなかにいるとすれば、私は彼女を外に出した。今日というこの一日に。以上だ。
2921 (チャリが施術場に導かれ、地面に描かれた「罠」の上に脚を投げ出して座らされる) (全員(ムリナ、浜本、チャリの二人の娘)で、挨拶を唱和する)
Murina(Mu): ご傾聴下さい、ご傾聴下さい。 All: ムルングの! Mu: 誰に祈りを捧げるのか? All: ムルングに! Mu: 赦しを乞う者たちは All: これに Mu: ミコバ(施術師の編み袋(複数)118)は All: 互いに傾聴しあう Mu: 癒し手に妖術をなす者たちは All: 死んでしまえ Mu: 施術師の助手に妖術をなす者たちは All: 死んでしまえ Mu: 施術師の皆さん、ご傾聴下さい All: ムルングの!
2922 (赤い鶏による薬液浴びと周回の唱えごと)
Murina(Mu): プッ(唾液を手に吐く)。ビスミラーイ、ラフマーニ、ラヒーム...(以下、ムリナ風アラビア語による唱えごと。最初の部分はコーランの最初の章アル・ファティハの耳コピだが、それ以降は書き起こし不可能)...190 (以下、スワヒリ語) さて、私はこの時間に話さなかったでしょうに、高貴な方々。私は首長様方と高位の方々、導師の方々ともどもに請い願います。どうかお聞き届けください。私は首長様方と高位の方々の祖霊の方々にも請い願います。 (以下、ドゥルマ語) さて、私はこのような時間にお話しなかったでしょう。私はお前、赤い鶏に話しています。赤い鶏よ、私が話そうと、話すまいと、それはチャリのことです。チャリは病気です。草木よ、奴隷よ、使役される者よ。お前は捕らえよと言われれば捕らえる。お前は離せと言われれば、離す。今、お前、フュラモヨ・ジメネ・ムバユムバユ。ウシのジメネ、コウモリのジメネ、蛆虫のジメネ、ヘビのジメネ、ジメネよ。 アーメン。この者チャリは妖術をかけられた。フュラモヨ、ジメネ、ムバユムバユの妖術をなされた。自分自身を憎むこと。彼女は話すべき言葉すらもたない。
2923 (赤い鶏、唱えごとつづき)
Murina(Mu): 何を口にしても、美味しく感じない(食欲がない)。何もかもが。果ては、チャリに(食べるように)言っても、そのまま。なんとお前フュラモヨ、彼女がヘビに立ち止まったら(そのときお前は彼女を捕らえた)。お前の父親の肛門、お前の母親の肛門。お前には屋敷がない。お前には畑もない。お前は命じられた。お前が留まる所、そこがお前が寝るところだと。私は今、フュラモヨをクブェンドゥラ4する。フュラモヨを私はこの赤い鶏でクブェンドゥラする。あの妖術使いも、この赤い鶏で(を媒体にして)妖術をかけた。こいつでだ。そう。私は彼女をこの者で、赤い鶏でクブェンドゥラする。二度とフュラモヨは、なし。 フュラモヨよ。その父親は他ならぬ私だ。フュラモヨよ、その母親は、他ならぬ私だ。このように今、すべてのモノを、そう私はすべてのモノを取り除く。ムコモ(mukomo181)、ムボングゥェのムコモそのものも、ピンダモンゴのムコモも、雷のムコモも、ミツバチのムコモも、スズメバチのムコモも、サソリのムコモも。それらすべてはドゥワ(maduwa191)の妖術だ。
2924 (赤い鶏、唱えごとつづき)
Murina(Mu): そして今日、今、私は今日、今、私がこのように言うとおりに命じる。私は命じた。チャリはこの後、彼女の知性が豊かになれるなら(字義通りには「彼女の知性が豊かになることを『知っているなら』」以下の唱えごとにおいても同じ)、豊かになりますように。アーメン!私は命じた。この彼女の(癒しの)仕事が、花開きますようにと。花開くことができるなら、花開きますように。 All: (仕事が)花と開け。 Mu: このジメネ(dzimene165)が、どうか、たち去りうるものなら、立ち去りますように。 All: 立ち去れ。 Mu: チャリが(施術師として)求められることができるのなら、求められますように。 All: 求められよ。 Mu: チャリが、まずはこの場所から始め、ずっと(タンザニアの)タンガ(地名)あたりまで求められ、タンガに住む人々も来ることを知っている。どうでしょう?タンガの住民が来ることができるのなら。 All: やって来い。 Mu: 来るというのなら、やって来ますように。タンガの住民たちよ。ヴィグルンガーニ(Vigurungani194)の住民たちよ、来ることができるのなら、やって来ますように。
2925 (赤い鶏、唱えごとつづき)
Murina(Mu): 今、そう、私はこの赤い鶏でクブェンドゥラする。赤い鶏はこいつだ。私は命じた。(フュラモヨよ)立ち去れるなら、立ち去るように。 All: 立ち去ってしまえ。 Mu: サラマ、サラミーニ。草木よ、奴隷よ、使役される者よ。お前は使役され、離せと言われると、離す。お前、キブンブモ(chibumbumo178)、女たちの太鼓。お前は男たちには踊られない。女たちが踊る。 私はお前を盗んではいない、お前フュラモヨよ。私はお前をカニョンゲ・ワ・ベカンガ・ムンガから買った。加えて、さらに私はお前をロンブ・ワ・バヤから買った。そしてお前をズマ・ワ・ンゴメから買った。私はお前をマンガレ・ワ・ンゴメから買った。そう、私は困難や苦悩(tabu na mashaka)のなかでお前を買った。困難と苦悩は私がかつて経験したそれであり、現在チャリがもっているそれだ。チャリはしたたかに妖術をかけられた。充分すぎるほどの(妖術に用いる)薬(muhaso15)が動員されていた。やつらは、誰にも知られていないと思っている。でも人々は知っている。
2926 (赤い鶏、唱えごとつづき)
Murina(Mu): もしフュラモヨだけならば、ここではフュラモヨは一夜と経たず、何もできない。そもそもそれは今日のうちに追い払われてしまう、このフュラモヨは。なぜなら(フュラモヨは)今日にも吠え立てられて、ここにはおられないだろうから。 今日、今、私は断言する。私はこれらの草木(mihi19)をけしかけてやると。お前が熱かったのは、もう過去のこと。今や私の薬液に触れた以上、お前は灰となることができる。灰となれ。 All: 灰となれ。 Mu: アーメン!あの薬(muhaso)を仕掛けた奴、(薬が)そいつ本人に戻っていくことができるなら、戻っていくように。 All: 戻っていけ。 Mu: そいつが、ナイフを突き刺されること、そいつが突き刺されうるなら、突き刺されよ。そいつが自動車に踏み潰されるなら、踏み潰されよ。 All: 踏み潰されろ。
2927 (赤い鶏、唱えごとつづき)
Murina(Mu): その者が自分でロープで首をくくることが可能なら、首をくくれ。 All: 首をくくれ。 Mu: サラマ、サラミーニ。草木(muhi)よ、奴隷よ、使役される者よ。お前は捕らえよと言われれば、捕らえる。お前は離せと言われれば、離す。解きほどけ、解きほどけ、解きほどけ(何度も繰り返す)。チャリを吐き出せ。お前がチャリを与えられたのは、もう過ぎたこと。今日、今、そう、私は命じる、解きほどけと。 お前、草木、ボンデ(の妖術)を冷やす者(muphoza)、(行って)ヴンバ(の妖術)を冷し、(行って)ペンバ(Pemba195)(の妖術)を冷し、(行って)ダルニ(の妖術)を冷やす。私は命じた。今日、今、そうお前はマブォゾ(maphozo)となって、冷やせ。 お前、ムァンガキツワ(mwangachitswa185)、夜に昼に(妖術的に)襲いかかる者。お前、キクァクァラ(chikpwakpwara187)、キクァクァラはお前、小雨季に轟き、大雨季に轟くものよ。小雨季に轟き、大雨季を締めくくる。お前はチャリの身体のなかでドロドロ(またはゴボゴボ)音を立てろと命じられた。今日、今、そう、私は命じた、お前、罠を解除する者(chifyatula196)者よ、私は命じた、自身を解除せよと。 お前という者には家はない。お前の故郷は荒蕪地(nyika197)だ。行ってエランドとシマウマを打て。海岸部に戻って、そこでカニたちやトカゲウオを打て。サラマ、サラミーニ。
2928 (赤い鶏、唱えごとつづき)
Murina(Mu): 今、心臟は付き従うこと。顔は人々と笑いあうこと。赤い鶏はお前だ。チャリは他人とは喧嘩はない、この者は。チャリに妖術をかけた者は、ただ彼女を妬んだのみ。チャリは他人が(努力して)手に入れたものを、食べない(自分のものにしない)。チャリは自分の汗を食べる(自分の努力の結果のみを自分のものにする)。今日、今、そう、私はこのフュラモヨを取り除く。 ジメネは、なし。ジメネのフュラモヨは、なし。ムベガ(mbega198)のフュラモヨも、なし。ヒヒのフュラモヨは、なし。水の中(に入水自殺する)の、ワニのフュラモヨは、なし。ロープ(で首を吊って自殺する)のコウモリのフュラモヨは、なし。なし。 解きほどけ、解きほどけ、お前は解きほどく者となって、解きほどけ。 (ムリナ、赤い鶏を薬液に浸しては、赤い鶏をチャリの身体中にこすりつけるようにして薬液をチャリに浴びさせていく) Mu: 解きほどく者となれ。解きほどく者となれ...(何度も繰り返し)。チャリを解きほどけ、チャリを解きほどけ...(何度も繰り返し)。 これら知性(akili200)の場所で、再びセミ(nyenze201)の鳴くこと、なし。その場所で、自動車(複数)が鳴くことも、なし。知性(およびその場所)は、癒やしの術の知性として熟しますように。知性と脳(wongo)は癒しの術のやり方で、揺れ動きますように。脳は病気の仕方で揺れ動くことなし。 (赤い鶏は屠られずに、放たれる)
Murina(Mu): (娘タブに向かって)キムリムリ203のやつをもって来てちょうだい。 (逆毛の鶏に対する唱えごと) Mu: サラマ、サラミーニ160。逆毛の鶏(k'uk'u wa chidimu)はお前だ。お前こそ、逆立たせるもの(ndimulo204)、女を逆立たせるもの。お前の場所は、お前が今いる場所だ、お前には家(屋敷)はない。今日、今、私は宣言する。私はチャリをこのヒヨコ(chiziwi, pl.viziwi, alt. chizibwi, pl.vizibwi: 雄か雌かの判別がまだつかないヒヨコ)とともに周回する。ヒヨコは8年目のヒヨコだ205。お前、逆毛の鶏とはお前だ。今日、今、私は宣言する。チャリが今いる場所で、ムベガ(mbega198)たれと。誰からも見てもらえる(誰もが会いに来る)。
2930 (逆毛の鶏、唱えごとつづき)
Murina(Mu): チャリ、今いる場所で、ンゲケワ(ngekewa206)たれと。仲間と歓談を楽しめ。サラマ、サラミーニ。 今、私はチャリをクブェンドゥラする。今、私は命じた。この後は、病気はダルマワシのごとく飛び去れ、病気は(水辺の)ナピアグラス(mutsuchi208)のごとく、飛び去れ(sic.)。今日、今、チャリがここを出れば、脚は土台柱のごとく、つき立て。手は握り拳(mikpwaho)のごとく、しかと握り、頭は木の椀(muvure209)のごとく、まっすぐ立て。サラマ、サラミーニ。 私どもは、首長様方と高位の方々の祖霊の方々に請い願います。私には罪はございません。罪人は妖術を用いる者です。そして今日、今、私はチャリを洗い清めます。この者チャリがここを出れば、涼しい風に打たれんことを。今日生まれたばかりのごとくあれ。その汚れ(nongo11)は良好なれ。サラマ、サラミーニ。 草木(muhi)よ、奴隷よ、使役される者よ。お前は捕らえよと言われれば、捕らえる。お前は離せと言われれば、離す。今、逆毛の鶏はお前だ。今私はチャリをクブェンドゥラする。
2931 (逆毛の鶏に対する唱えごと、つづき)
Murina(Mu): 私は命じた。今、チャリ、ここを出れた後は、病気よ、ダルマワシのごとく、飛び去れ。病気よ、(水辺の)ナピアグラスの如く、清められよ。 草木どうしは競い合うもの。お前は、男(妖術を駆使する者)どうしの戯れと言われる。男どうしの戯れ、私はそれが大したものだなどと思わない。だから私はそれを男どうしの戯れと呼ぶのだ。奴(妖術使い)は薬(muhaso15)を真に所有してはいない。薬、その主はムルングです。そして私はムルングに祈ります。サラマ、サラミーニ。奴は王位をもってはいない。王はムルングです。あれらは、戯れ、トリック(手品)にすぎません。あれらは。 今、私は閉じられた施錠を、解きほどく。チャリは、樹の上に閉ざされた。彼女はキワタ(mware122)の樹の上に閉ざされた。ムフネ(mufune217)の樹の上に閉ざされた。ヤシ(munazi)の樹の上に閉ざされた。エダウチヤシ(mukoma218)の樹の上に閉ざされた。ムバンバコフィ(mubambakofi220)の樹の上に閉ざされた。アフリカ・ミルラ(mubambara221)の樹の上に閉ざされた。マンゴー(mwembe222)の樹の上に閉ざされた。カシューナッツ(mukanju114)の樹の上に閉ざされた。オレンジ(muchungbwa223)の樹の上に閉ざされた。
2932 (逆毛の鶏に対する唱えごと、つづき)
Murina(Mu): 私は言った。すべての施錠を私は地面に落としたと。今日、この日、私はチャリを上の方から外に出した。今日、今、私はチャリを地面に置いた。そして今日、今、私はあれらすべての施錠を解きほどいた。ロープのことを、さらに他のなんであれ、考えてしまう病気は、二度となし。あるいは、過ぎ去った戯れ、こうしたことも。 逆毛の鶏はお前だ。今、私は命じた。チャリを冷やせと。解きほどけ、解きほどけ、解きほどけ(何度も繰り返し)。逆毛の鶏はお前だ。 (ムリナ、逆毛の鶏を屠り、投げ捨てる) Mu: 良好だね。
2933 (黒い雌鶏に対する唱えごと)
Murina(Mu): お前、生き返らせる者(mufufulo224)、生き返らせる者。チャリは(妖術使いによって)「死せる者は戻ってこない」と唱えられた。しかし、今日、今、チャリは死ななかった。今日、私はチャリを生き返らせた。私はチャリを生き返らせた。そうサラマ、サラミーニ。私はチャリを生き返らせた(繰り返し)。 今、私はチャリを生き返らせた。彼女にはもはや争いはない(繰り返し)。 今、そう、彼女を生き返らせよ。さらにお前が去るときには、そのフュラモヨとともに立ち去れ。今は、再び争いはない。チャリが妖術をなされたのは、過ぎたこと(一昨日、昨日のこと)。そして今、私は命じた。お前が去るときには、そのフュラモヨをともなって立ち去れと。 さて、そう、痛みは引く。痛みが引くように、痛みが引くように(繰り返し)。 もはや争いは、なし。人は自分の屋敷を憎まず、人は自分の子供たちを憎まず、人はその夫を憎まず、人は自分自身を憎まない。人間とは、仲間とともに語り合い、傾聴しあう(理解し合う)者。サラマ、サラミーニ。 さて、降りてこい、降りてこい。さあ、降りてこい。問題は終わった。 私は、お前、鶏に与えた。お前、鶏に、すべてのフュラモヨを与えた。そう、私はお前、鶏にそれを与えた。あなたムルングよ、今日、この日はあなたが(チャリに死をもたらすと)予定した日ではありません。私は申します。どうかこの者を放してやってください、そしてこの者に行かせてやってください。 (ムリナは黒い雌鶏をチャリの頭に乗せる。鶏はチャリの頭の上でじっとしている) Mu: ねえ、こいつがっちりつかまってるよ。立ち去ろうともしない。 (ムリナ、黒い雌鶏の上から薬液を注ぎ、チャリの身体を洗う。)
ク・ブェンドゥラ(kuphendula)は、妖術の攻撃を受けている人を治療する際の、最も基本的な施術である。ドゥルマ社会における妖術の物語の呪縛性を論じた浜本 2014でも、解説しているように、それは極めてわかりやすいロジックに基づいた施術である。
妖術使い(mutsai, pl.atsai)とは、典型的には、人に危害を加えうる「薬(muhaso15)」についての知識をもち、それを駆使する者のことである。「薬」の多くは植物に由来するもので、しばしば「草木(muhi19)」と呼びかけられる。「薬」についての知識や唱えごとは、たとえ父親からであっても金銭の授受を通じて手に入れられねばならない。私の解釈では、それが妖術使いに「薬」に命令し、使役する権利を与える。上の唱えごとのなかでも何度も繰り返されているように、薬は奴隷であり、その所有者の命令に従うのである。
妖術によって引き起こされた「病気」を治療する施術師も、妖術使いと極めて似通った存在である。なぜなら彼らも妖術使いが用いるのと同じ「薬」を使って、治療するからである。それが「ひっくり返す」を意味する動詞であるク・ブェンドゥラ(ku-phendula)という施術である。妖術使いは、典型的には「薬」を別れ道などに罠(muhambo)として仕掛け、指定された犠牲者がそれを踏むと、直ちに犠牲者を「捕らえる」つまり攻撃する。そしてその罠を仕掛ける際に妖術使いが用いた媒体(chiryangona52)に応じた災いを犠牲者の上にもたらす。
クブェンドゥラにおいては、施術師は地面の上に「薬」を用いて、目に見える形で「罠」を描く。そして犠牲者をその上に座らせて、「薬」に犠牲者を捕らえさせる。しかしその薬には、妖術使いが下した命令とは正反対の命令がくだされる。犠牲者から撤退せよという命令である。
それが上のテクストにおいて繰り返される唱え言葉に、はっきり表明されている。「さて今、私はお前、草木、奴隷、使役されるお前に話している。お前は、捕まえよと言われれば捕まえる。お前は離せと言われれば、離す。今、チャリから手を離せ」。つまり施術師は妖術師と同じ「薬・草木」を用いて患者を罠にかけ直す。そして妖術使いがその薬に下した命令を、自分自身の命令で上書きしてしまうのである。妖術使いは犠牲者を捕らえて云々の病気にせよと命じた。今や施術師は、その命令を「犠牲者から手を離せ」という命令で上書きするのだ。
う~ん。すごく単純で、論理的な施術だ。問題は妖術は薬単体で仕掛けられるわけではないことだ。首吊りで殺したければロープの切れ端で、ナイフで自殺させたければナイフでなど、適切な媒体を用いなければならない。また一つの薬でも、さまざまに効果の異なる災いをひこ起こすことができる。それが唱えごとのなかで、何度か列挙されるフュラモヨの種類である。犀のフュラモヨ、犬のフュラモヨ、ジメネ、フカラなどなど。妖術使いがどれを注文したのかはわからないので、施術師はすべての知っている名前を列挙する。チャリの場合はロープでの首吊り未遂なのでロープを媒体として妖術をかけられたことは確かだ。さらにおそらくはコウモリのフュラモヨだろう。だって首吊り死体はコウモリのように上からぶら下がっているからである。
面白いのは施術師が、薬に対する支配力を誇示するかのように(?)、薬を罵倒するくだりである。薬に対して卑猥な罵倒語、「大便のなかの大便、父親の肛門、母親の肛門」など人前ではけっして口にできない言葉を投げつける。施術師はそれを恐れることなく堂々と口にする。(なぜこうした卑猥な言葉を挟むのかと質問したことがあるが、施術師は、そうすることになっているからと答えるのみだった)
大切なのは、「薬」に対して施術師が正当な所有者であることを訴えるくだりだ。「私はお前を盗んではいない。誰それから買った」と購入履歴を繰り返し、述べる。かくして「薬」は施術師の奴隷であり、子供である。施術師の命令に従わねばならないというわけだ。
以上が、施術師が妖術使いがもちいるのと同様の黒い炭の粉のような「薬」で行うことである。犠牲者を施術師の「罠」に座らせることでこれは、まずは成し遂げられる。
しかしクブェンドゥラの残りのほとんどは、フュラモヨから解き放たれた患者の身体を、元の正常な状態に戻すための作業に費やされている。それが患者の回りを鶏とともに周回する手続きである。それは、3種類の鶏を薬液に漬け、赤、逆毛、黒の順序で、その羽毛を毟りつつ、鶏で患者の身体を洗うという形で行われる。逆毛は屠られ、赤は放たれ(食べて良し)、黒い雌鶏はその後も患者の屋敷で飼い育てられる(ただしけっして食べてはならない)。
ここで用いられる薬液には、フュラモヨの黒い粉の「薬」も加えられているが、薬液の主成分はフィールドノートに挙げられている植物からもわかるように、ムルングの草木に加えて、ほとんどが屋敷の秩序に関する施術で必須の「冷しの草木」に分類される植物である。ムリナ氏は唱えごとのなかで、自分は妖術使いたちが黒い粉の薬だけを用いるのに対し、生(なま)のもので、フュラモヨを冷やすことでそれに対抗すると述べている。この薬液は、鶏の周回の全てで中心的な役割を演じるが、3種類の鶏それぞれにも役割がある。
赤い鶏は、フュラモヨに対する上書き命令のため。妖術使いが赤い鶏を媒体として妖術をかけたからと、唱えごとのなかで述べられている。上書き命令は、単にメインの「チャリから離れろ、解きほどけ」だけでなく、チャリの癒しの術の繁盛、妖術使いにその術が返っていって妖術使いを殺すように、までいろいろ虫の良い命令がくだされている。願望に近いか。ポイントは「冷しの草木」を主成分とする薬液によってフュラモヨが冷たくなることだろう。
逆毛の鶏は、その逆立つ毛のように状態の反転をうながすものであるように見える。解きほどき、冷やすことが繰り返し命じられるが、ポイントは高い所(気が動転している状態)に閉じ込められているチャリを「下に、地面に降ろす」ことである。
逆毛の鶏は屠られ、投げ捨てられる。頭が屋敷から離れる方向を向いて倒れたことが、施術の成功のしるしとされている。
最後の黒い雌鶏は、唱えごとの中では「生き返らせるもの(mufufulo)」と語られているが、他の施術におけると同様に「力の鶏(k'uk'u wa nguvu)」とされている。周回の回数は3羽の鶏の中では一番少なく、唱えごとも短く、単純である。しかし最も重要なパートだとされている。そしてこの黒い鶏にすべてのフュラモヨを背負わせて、生きながらえさせる。それによってチャリは完全にかけられたフュラモヨからは解放されることになる。この鶏は死んでも食べることはできないとされていることにも注意したい。
なおこのクブェンドゥラでは、黒雌鶏の周回は5周だったが、多くの他のクブェンドゥラでは4周であることが普通だった。なぜ一周余計だったのかは聞かなかったので不明。ムリナ本人が数え損なっていた可能性もある。
もちろん、わからない。が、念入りな施術によって、おそらく妖術使いが企てた攻撃は、ほぼキャンセルされたとされているらしい。私はその後すぐ帰宅したが、辞去まぎわにやって来た施術の客zu...さんと皆楽しそうに歓談していたので、一安心というところなのだろう。ただ、妖術使いは執念深く、自分たちの攻撃がうまく行かなかったとわかると、新たな攻撃を仕掛けてくるものなので、これからも油断はならないのだ。やれやれ。
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tsovyaの別名とされる「内陸部のスディアニ」の絵 ↩
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。ただしドゥルマではサブロケーションより下位の単位であるラロが日々の生活では重要で、地域の長老たちによりさまざまな紛争が話し合われる最小の単位となっているので私はこのラロを引き続き「村」と呼ぶことにしている。新行政システムではかつてのサブロケーションがvillageに対応するとされているが、それとはズレた用法になる。例えば「青い芯のトウモロコシ」や「ジャコウネコの池」を私は村と呼んでいるが、それはラロであり、サブロケーションよりも下の単位(公式には存在しない単位)になる。実はその下にさらに名前のある単位があるが、それは地図にも表れない単位なので私は「地区」ととりあえず呼んでいる。 ↩ ↩
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